唇を隠して,それでも君に恋したい。
「伊織」
「……和寧」
そう,この友人の発案で。
先の事など何も分からなくなっていた僕を拾い上げ,政界の重鎮である父親・国を説得,資金を得て,メンバーを揃えて,余すことなく権力を振るった。
僕はただ,和寧と相談しながら思う存分にトライアンドエラーを繰り返してきただけ。
和寧がいなければ,今日という日は決して来なかった。
表向きは,医療の研究チームに籍を置いている僕。
その実,僕はずっと"S・Pの毒を無力化する研究"を行なっていた。
もうS・Pなどというくだらない特性には振り回されない。
S・P(甘い毒)でいることをやめられなくても,生まれることを止められなくても。
P・B(可哀想な蜂)が,そうでなくなってくれたら同じこと。
僕らの唾液はこの先,何の効力もない体液となる。
男とも女ともいえない身体の構造は,弊害があれば生まれた後に手術する他ない。
今のところ自費になるが,いつかその存在を隠さず,基金としてでも補助金が出せたら嬉しい。
そんな風にぼうっと考えていると,和寧のため息が落とされる。
いつの間に考え込んでいたんだろう。
僕も珍しく,浮かれていたのかもしれない。
「白衣なんか着てないでさ,ちゃんとパーティーにそぐう格好して欲しかったけどな僕は」
そんな小言も慣れたもの。
1部の子供達にお母さん等と揶揄されている事を,こいつは知っているのだろうか。
「僕だって元々は来るつもりなんて無かったんだ。ちゃんと来ただけいいだろ。君の顔を立てたんだから,もうそろそろ帰るよ」
さらにため息を深くする和寧。
「参加するのは当たり前だよ。あれは君のためのものなんだから……君の研究がようやく完成したのに」
僕はそれを見て,ふてぶてしくため息をつき返した。
「僕のじゃない。皆のだ。手を回して提案して,駆け回ってもくれた君と,いくつも情報を提供してくれた"リュー"と,薬のプロとして研究者として参加してくれた"ヒメ"と,被験体になってくれた子供たちと……研究者として集まってくれた他のS·Pたちの悲願だ」
数え切れない,仲間たち。