唇を隠して,それでも君に恋したい。

僕は,誰が相手だろうと,口元を晒しては……いけなかったんだ。

僕は,生まれたときから身体の構造が人と違う。

小さい頃にはただのむちむちな子供だと思われていた胸は,年齢と共に,女性のように,だけど小さくほんのりとだけ膨らみ。

かと思えば,ーーーも変わらずついたまま。

けれどそれらは全て,とある存在としての一特徴でしかない。

僕のからだの,本当に恐ろしいのは……外見的なものではない。

僕が普段必死に隠している,この唇の奥から常に分泌されている……唾液の効果だった。

涙でも汗でもなく,唾液だけにとても大きな特徴を持っている。

甘い。

とても甘いのだ,僕のそれは。

味覚ともいいがたい,麻薬のように危うい"甘さ"。

頭に直接痺れる,劇毒。

それを1滴でも他人の口に入れてはいけない。

うっかり咳をして飛びました,では許されない。

そんな,他人を惑わせる甘い唾液をもって生まれるもの。

それが僕,四百万人に1人といわれる,sweet poison(甘い毒)と呼ばれる存在だ。

地球上で換算すると,2000人にも及ばないレアなニンゲンらしい。

反対に……どこにでもいる普通の人達の事をpoor bee(かわいそうなハチ)と呼ぶ。

S(sweet)·P(poison)の存在を世界なんたら協会に秘匿されているP(poor)·B(bee)は,唾液の作用になど気付けないまま心を操られ,1度味わってしまっては惹き寄せられる運命にあるから,だ。

一般人のことは蜂に喩えるくせに,僕らの唾液を蜜とは呼ばない。

僕らが影響を与えようが与えまいが,既に彼らを可哀想と名付ける。

きっとこの分類をはっきりと示した人間は,僕らS·Pの事がよほど嫌いだったのだと思った。
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