唇を隠して,それでも君に恋したい。
「もぅ,いったぁあい♡ もーーーっ誰なの,あと少しだったのにぃー!」
ドンッと,上体を起こしたのであろう百合川さんの背中が僕のお尻に当たった。
突き飛ばされるような形で僕は前へと再び倒れる。
ま,ず……い。
リューがとっさに自分を庇おうと動くも,僕らの間には既に腕1本も挟まる隙は無い。
いっそ突き飛ばして欲しかったけど,それもお互い無理だった。
眼前にリューのぎゅっとした目が見える。
「「伊織!!!!」」
スズと敦の声が聞こえた。
でもその時にはもう。
無防備な僕の唇は,リューのそれとしっかり合わさった後だった。
僕には,人に言えない秘密がある。
ひとつは,敦への恋心。
ふたつめに……他人には理解されないだろう,稀有な体質のこと。
スズが掴んだだろう無駄に終わった襟首が苦しい。
僕はスズに引っ張られるようにして胴体をあげた。
「なんてことを」
僕の言葉に,後ろで百合川さんのびくりと反応した気配がする。
取り返しのつかない出来事に,三太や他の人たちからのひぇぇえという情けない声も聞こえた。
僕は咄嗟に自分の口を指で押さえたけれど,今さらもう遅い。
起きてしまったものは,戻らない。
リューの顔を覗き込む。
離れなければ,でも,もしもなんともないなら。
一縷の望みにすがって,僕は混乱する脳みそでマスクをし直した。