唇を隠して,それでも君に恋したい。
僕と"オナジ"にユメヲミタ。
ボクと未知とのソウグウ。
「はーいどうも初めまして~」
カラカラと笑う目の前の男子生徒に,僕は目を丸くして頬杖にしていた右手から顔を少しあげた。
朝から転校生の知らせに教室が沸き立つ。
スタイルも顔もよくノリも軽い転校生を見て,女の子は特にひそひそ声が1.5倍になっていた。
……どおりで見慣れない生徒だと思ったわけだ。
どう見ても真っ直ぐ僕を見て,悪戯に成功した子供みたいな笑顔を向けているのは,先日ワークを回収した後の廊下で僕にぶつかったおっちょこちょいな相手。
「黒田 和寧。彼女ナシ。趣味でアチコチ転校してたので,方言めちゃくちゃで~す。しばらくは慣れないと思うけど,ヨロシクね」
慣れたようにあちこち手を振る転校生。
嫌みのないその態度に,クラスメートは興奮したり呆れたりと様々だった。
僕はちらりと後ろの席をみる。
数日前にいきなり設置された空席は,たぶんこの日のためだったんだろう。
親の転勤でも何でもなく,転校が趣味って……
変なやつが僕の後ろに来たものだと,僕はちょっぴり浅くため息をついた。
黒田 和寧。
白板にかかれた漢字を,机でなぞる。
名前は,すごく綺麗だな。
僕は口の中で反芻してみた。
紹介が終わると,黒田は軽い足取りで向かってくる。