唇を隠して,それでも君に恋したい。

ボクとナイショのキョウユウ。

「それで,伊織は……いつまで我慢できんの?」



置いてきたはずの和寧の声。

僕はその言葉にはっとして,後ろを振り返った。

すごく近い位置に和寧の顔を見つけて,眉を寄せた僕がその顔を引き離す。

それでって,なんの接続……?



「我慢って何? 別に僕,我慢してることなんてないんだけど」



意味が分からないと首をかしげて,僕は和寧の顔面をつかんでいた右手を離した。

我慢,我慢?

僕は和寧の言葉に振り返った一瞬の,傷ついているような,切ないような顔を思い出して。

そのせいで一日中,その意味不明な言葉の意味を考える羽目になってしまった。

敦が3限に戻ってこれても,昼ごはんを食べていても,また教室が騒がしくなっても。

放課後になるまでずっと,和寧の顔と言葉が頭から離れなかった。

そして,何で僕がとだんだんとむかむかしてきた頃。

突然1つの理由にたどり着いて,さぁっと血の気が引いていく。

ーキーンコーンカーンコーン



「ではまた明日ー。早く帰れよー」



あいつ,もしかして……

敦への気持ちに気付いて……る?

いや,でも。

そんなわけはないと思いながら,僕は和寧を振り返った。

そうだ,そんなわけない。

仮に気付いたとして,和寧があんな表情を浮かべる理由はないし。

僕の気のせいだ。

いやでもまさか,和寧が同性の人に……
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