唇を隠して,それでも君に恋したい。
長い間"キミ"のユメを見ていた。
ーガタンゴトン,ガタガタッ
何の音だろう。
僕は何故か重たいように感じる頭で考える。
考えたけど……
気付いたときには,目の前が明るくなっていて。
目の前には教科書を持った敦がいた。
? 敦って,誰だっけ。
「よろしく羽村」
カタンと椅子が傾く。
さっきの音は,これが原因だったらしい。
目の前の同級生からの声かけに,数秒フリーズした僕はあぁと思い出した。
席替え,だったんだ。
よろしく,と返すべきか迷う。
「誰?」
僕はそれよりも先に,根本的なことを尋ねることにした。
手を差し出したままの彼は,苦笑をこぼす。
「中村 敦。まあ,クラスメートとはいえまだ1ヶ月だもんな。よろしく」
今度は強引に僕の手を引いて,握手を交わす敦。
僕が俯いたままされるがままになっていると,厚くもっさりとした前髪の向こうに視線が交差した。
思わず驚いて身を引く僕。
「う,わ……やめ」
敦はそのまま,僕のおでこに手を当てるようにして,僕の前髪を持ち上げる。
抵抗しようにも,体格さがありすぎた。