唇を隠して,それでも君に恋したい。
「ごめんね三太。リューとっちゃって。さっきはボール拾ってくれてありがとう」
「伊織はなーーー。もうちょっっと上手くなろうなー。なんなら三太様直々に」
「あ,いやそれは遠慮しとくよ。リューに教わったし」
「はぁ?!?!」
気持ちはうれしいけど,三太には聞くだけ無駄だ。
だーだのばーだのアバウトな効果音でしか教われないし,下手したらもっと下手になるのが目に見えている。
「? 伊織,腕痛いのか?」
「え。あ,いや別に」
左手を擦ったのを見つけたのか,敦は僕を見た。
実はリューに教わるより前に,自分で振ったラケットをぶつけてしまったのだ。
けれどそんなことを言えるわけもなく,僕は曖昧に返す。
「擦ってんじゃん。ほら,一応貼っとけ」
「……ありがと」
スズのポケットから出てきた絆創膏。
直ぐに気付く敦。
直ぐに物が出てくるスズ。
直ぐに手伝ってくれるリュー。
……いつも元気な……三太?
僕はこうして,いつも誰かしらに助けられながら日々を過ごしていた。