唇を隠して,それでも君に恋したい。
「ちぇ」
「だから,だめだってば」
男は諦めない女の首に雪崩れるようにして唇を押し付けた。
その表情はあまりにも淡白で,僕はついじっと眺めてしまう。
何があったのだろう。
数秒ののち,女の肩が震えた。
男はふっと笑ったようにみえる。
女はその場所を片手で隠し,僕に気づいたあと気まずそうに去っていった。
未だに僕に気付きもせず,首に片手を置いて壁へ背を預ける男の名を,僕は呼ぶ。
「和寧」
はっとしたように,そいつは僕を見た。
まったく,何をしてるんだこんなところで。
「あー」
「あー,じゃないだろ」
「んー……」
困ったように,和寧はつまらない笑顔を見せる。
見られたくないようなこと,するなよ。
スズたちに伝えてこれないような理由で,皆のもとを去るなよ。
「どうしてここに?」
「"普通に"トイレだよ。」
それ以外ないだろと,墓穴を掘った和寧に更に眉を寄せた僕。
和寧は1本しかない道の先にあるトイレの標識を見て,また
「あー」
と言った。