唇を隠して,それでも君に恋したい。



「幻滅,するだろうね」



それが,目的なのか。

そんなことのために,その人も,自分も傷つけるのか。



「僕で最後にしろよ」



自分の口からこんな大胆な言葉が出るなんて思いもしなかった。

だけど,こいつが諦めてまともになるには,今しかないと思った。

僕の持つ興味と,お前のもつ疑問。

それを叶えるから,他は諦めろ。



「なに,伊織。いーの,こんなところで」

「体育館の倉庫よりは粗末じゃないと思うけど」

「それもそうか」



和寧は笑いながらも,その瞳は迷いに揺れている。

僕はその迷いを断つように和寧の前に立って,右手を壁に押し付けた。

ふーと息をはく。

僕だって,怖い。



「……和寧?」

「んー? ……いいよ,君の勝ち」


< 84 / 163 >

この作品をシェア

pagetop