唇を隠して,それでも君に恋したい。

でも




「じゃあ和寧とは」

「何でもない。ちょっと話せない事情があって……でももうしない。まだ未遂だから,本当に何もない」

「俺と,付き合ってくれるか?」



僕は,敦の事がどうしよもなく好きだ。

その敦が,たとえ気の迷いだとしてもこう望んでくれるなら。



「条件がある。僕は君に沢山の隠し事をしている。それを……隠したままでいいなら。それから,僕の許した以上の接触をしないこと。そんな僕でもいいなら……」



僕が受け入れないなんてそんなはずないんだ。

本当はこんなことも,言いたくない。

僕から敦へ条件を突き付けるなんて,拒絶で頬が痙攣する。

君は君のままでいい。

僕なんて,敦の好きなように扱えばいい。

でも,そうは言えないのが……僕の運命だ。



「今まで通りでいい。伊織は伊織のままで,俺は好きだ」




やっぱり君は中村 敦。

僕に無いものを持っていて,僕にあげられないものを僕にくれる。

僕の大好きな人。



「おーー。2人一緒だったんや」

「三太」



皆と合流すると,三太がいち早く僕たちに気がついた。



「入れ違いになったのかな。あのあと直ぐ和寧も見つかってさ」



スズの悪気ない言葉に,勝手に気まずい僕は小さく微笑みだけ返す。

当の和寧はぴょこりとスズの隣から顔を出して,探るようなからかうような……とにかく好奇心一杯の表情を僕に寄越していた。

元はと言えば……と文句のひとつでも言いたくなっていると,そんな僕に向かってスズが話しかける。
< 91 / 163 >

この作品をシェア

pagetop