唇を隠して,それでも君に恋したい。
でも
「じゃあ和寧とは」
「何でもない。ちょっと話せない事情があって……でももうしない。まだ未遂だから,本当に何もない」
「俺と,付き合ってくれるか?」
僕は,敦の事がどうしよもなく好きだ。
その敦が,たとえ気の迷いだとしてもこう望んでくれるなら。
「条件がある。僕は君に沢山の隠し事をしている。それを……隠したままでいいなら。それから,僕の許した以上の接触をしないこと。そんな僕でもいいなら……」
僕が受け入れないなんてそんなはずないんだ。
本当はこんなことも,言いたくない。
僕から敦へ条件を突き付けるなんて,拒絶で頬が痙攣する。
君は君のままでいい。
僕なんて,敦の好きなように扱えばいい。
でも,そうは言えないのが……僕の運命だ。
「今まで通りでいい。伊織は伊織のままで,俺は好きだ」
やっぱり君は中村 敦。
僕に無いものを持っていて,僕にあげられないものを僕にくれる。
僕の大好きな人。
「おーー。2人一緒だったんや」
「三太」
皆と合流すると,三太がいち早く僕たちに気がついた。
「入れ違いになったのかな。あのあと直ぐ和寧も見つかってさ」
スズの悪気ない言葉に,勝手に気まずい僕は小さく微笑みだけ返す。
当の和寧はぴょこりとスズの隣から顔を出して,探るようなからかうような……とにかく好奇心一杯の表情を僕に寄越していた。
元はと言えば……と文句のひとつでも言いたくなっていると,そんな僕に向かってスズが話しかける。