パブリックダーリン~私と彼と彼氏~
「…もう終わったんだ。俺の役目も終わりだよ、俺が存在する必要もない」

「…ひくっ、ひ…っ」

声が出ない、何か言いたいのに声が出せない。ヒクヒクと喉が鳴って小刻みに息をした。

「泣くな、紫衣」

泣きじゃくる私を慰めるように、似つかわしくない明るい声で。

「紫衣が好きなのは俺じゃなくて彗だろ」

下を見ちゃった。

ぎゅってスマホを握りしめたまま、止め方のわからない涙を流して、ふるふると首を振った。

どうしてこんな気持ちになるのかわかんない、だけど痛くてどうしようもなく心が震えるの。

「好き…」

心が叫んでるの。

「好きだよ、私はケイのことっ」

顔を上げた、涙でよく見えなかったけどケイの顔さえ…


「!」


その瞬間、グッと引き寄せられた。

ケイの胸の中に、抱き寄せられた。


包み込まれるように私の背中にケイの腕が触れて、ドクドクとケイの心臓の音を感じる。


「離したくなるようなこと言うな…っ」


また涙が出て来ちゃう、やっぱりよく見えないよ何も見えない…


ケイの胸の中に顔を埋めるようにむせび泣いた。

「俺は元々いない人間なんだ」

「そんなの…っ」

「ここにいてもしょーがねぇんだよ」

「…っ」

そんなことないよ、そんなことない。

ずっと辛かったのはケイだっておんなじだよ。

ケイもいっぱい傷付いて来た、ケイがいたからここまで来れたの。

やっとこれから始まるだよ、始まったばかりなの。

それなのに…

「紫衣…」


ケイだってこれからだって思っちゃダメなの?


どうしてケイだけ違うの?


ケイにも笑っててほしいよ。


もっと笑っていいの。


もう強がらなくていいんだよ。



だけど…



「存在する意味を与えてくれてありがとう」



お別れを言わなくちゃいけないんだね。
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