【シナリオ】御曹司には興味がない〜スマホ依存症の私に執着しないで〜

第十一章 食事会

〇エントランス

 18時より前から、田中と徳永は待っている。そこへ、嫌そうな紗菜が現れる。

 田中「水野さんは、不満そうだね。光栄なことだと思わないか?」
 紗菜「田中さんは、表彰されて納得ですが、私が選ばれた理由がわかりません」
 田中「そんなことないだろう。水野さんの調査書にどれだけ助けられてるか」
 紗菜「はい? 特に、変わったところはないと思いますが……」

 紗菜が普通だという書類が完璧で、他の人の書類は何かしら不備があったり、調査が甘いのだ。営業部のメンバーも、できれば全てを紗菜に任せたいと思っているが、そんな訳にはいかない。

 蓼科「お待たせいたしました」

 翠と蓼科が現れて目的地へ向かうのだが、運転手付きの社長の車とタクシーが待機している。紗菜が、他の二人とタクシーへ乗ろうとすると、翠から呼ばれる。

 翠「水野さん、聞きたいことがあるので、こちらへ乗って下さい」
 紗菜「ええ⁉」

 明らかに嫌そうな紗菜の態度に、蓼科は笑いを堪えるのに必死だ。田中と徳永は、さっさとタクシーに乗り込み、出発してしまった。

 蓼科「どうぞ」

 後部座席のドアを開き、翠が乗り込んだ後、紗菜に乗るようにすすめる。

 紗菜「は、はい……」

 不本意だが、断る選択肢はないと悟り、高級車の後部座席へ乗り込んだ。背筋を伸ばして姿勢正しく乗る紗菜を、翠がじっと見つめる。視線が向けられて、正直落ち着かない。蓼科は助手席から、その様子を見守っている。

 翠「なあ」
 
 砕けた口調だが、視線は紗菜に向いていて、明らかに紗菜を呼んでいるとわかる。

 紗菜「は、はい」
 翠「彼氏はいるか?」
 紗菜「はいい⁇」
 
 突然のプライベートな質問に、思わず叫び声を上げてしまう。これは、答えなくてはならないのだろうか。

 蓼科「お前唐突過ぎるだろう。水野さん、すみません。セクハラとかではないので」
 紗菜「はあ……」

 セクハラだとは思っていないが、どうして私に彼氏がいるのかを聞いたのか、真意がわからず戸惑う。

 翠「なあ」
 紗菜「はい」

 またまた同じやり取りが続くが、今度はもっと強烈だった。

 翠「俺と結婚しよう」
 紗菜「……。はいい⁇」

 更に意味のわからないことを言い出した。け、結婚? 誰が? 誰と?
 この人は何を言っているのだろうか……。助けを求めるように、助手席の蓼科さんを見るも、前屈みになって肩を震わせている。間違いなく、笑っているではないか。

 これは、きっとドッキリか何かなのだと思って、翠の方へと視線を向けるも、先程よりも真剣な顔をしている。

 こんな時は特に、スマホを触って心を落ち着けたいが、スマホに触れる雰囲気でもない。それでなくても、苦痛な空間なのだ。

 紗菜は、早く目的地へ着いてくれと、心の中で叫ぶ。
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