【シナリオ】御曹司には興味がない〜スマホ依存症の私に執着しないで〜

第十二章 お持ち帰り

〇料亭

 先にタクシーで到着して待っていた田中と徳永は、車から降りてきた翠と紗菜の微妙な雰囲気を不思議に思う。

 蓼科「お待たせしました。入りましょう」
 
 店に入ると個室へ通される。そして、食事会が始まるも、微妙な雰囲気は続く。

 蓼科「今日は、好きなだけ飲んで食べて下さい」
 田中・徳永「はい、ありがとうございます」

 普段、雲の上の存在の翠や蓼科と食事ができる、貴重な機会なのだ。これこそが、金一封以上に価値があるのだと、表彰されることを目指す目標になっている。若手と言われる田中や徳永だが、三十代後半で翠よりも年上なのだ。

 翠「最近、何か注目しているモノはないか?」
 田中「注目……。そうですね、若い女性の不動産選びに、面白いサイトが話題ですよね」
 翠「なんていうサイトだ?」
 徳永「あっ、もしかしてホームアドバイザーナサ!」
 紗菜「ブフッ」

 まさかの、自分のサイトが話題にされるとは思っていなかった紗菜は、飲んでいたものを吹き出す。

 蓼科「水野さん、大丈夫ですか?」
 紗菜「は、はい。すみません」
 
 すでに正体を知っている、翠と蓼科はあえて触れずに、この話題を続ける。

 田中「有料でもいいくらいですよね」
 徳永「若い女性に絞ってアドバイスしているところが、目の付け所にセンスを感じます」
 蓼科「確かに。ついつい、幅広い年代に対応することばかりを考えがちですからね」
 田中「蓼科さんもご存知でしたか」
 蓼科「ええ」

 この話題で会話が弾むほど、紗菜は縮こまっていく。まさか、社内の人達に知られているとは思っていなかったのだ。純粋に、若い女性を助けたい一心で始めたサイトが、これほどまでに話題の中心にされると居たたまれない。紗菜はお酒を飲んで、紛らわせる。
 
 翠は、この後紗菜をどう攻略しようかと企みながら、この状況を密かに楽しんでいた。結婚の言葉は、これっぽちも信じていないようだったが、酔う前にしっかりと伝えた。あとは、ズルいと言われようが、押しまくるつもりなのだ。

 話が盛り上がる中、紗菜だけが飲み過ぎてうとうとしている。

 蓼科「そろそろ、解散にしましょうか」
 翠「ああ」
 田中「今日はありがとうございました。あの、水野さんはどうしたら……」
 翠「心配ない」
 田中「そうですか。では、お先に失礼します」
 徳永「ありがとうございました」

 田中と徳永は、ほろ酔いで帰っていき、翠と蓼科、そして完全に眠った紗菜だけが残った。

 蓼科「どうするんだ?」
 翠「マンションへ連れて帰る」
 蓼科「変なことするなよ」
 翠「犯罪者みたいな言い方するなよ。同意を得るまでは我慢する」
 
 待たせていた車まで、翠が抱き上げて運ぶ。そして、自宅まで連れ帰ったのだ。

 

 

 
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