【シナリオ】御曹司には興味がない〜スマホ依存症の私に執着しないで〜

第二章 スマホ依存症

〇現地調査へ向かう。

 片手にスマホを持ち、イヤホンをつけて電車に乗る。紗菜は、世間一般で言われるところの、スマホ依存症だ。とにかく、片時もスマホを離さないし、常に見ていたい。オフィス内では見るわけにもいかず、仕事をしている時間が苦痛なのだ。SNSにコメントを入れたり、動画を見たり、一日の大半はスマホを触っている。だから物件の調査に、外へ出られる仕事が本当にありがたい。そして資料を完璧に仕上げさえしていたら、調査に出ている間のことは、誰にも文句を言われることはない。

 紗菜「え~っと、物件はこの辺のはず」

 手に持っているスマホには、地図アプリではなく、動画が流れている。
 物件の調査といっても、現地に行って実際に細かく見て回る調査や、法務局、役所などの資料で調べる調査など多岐に渡る。すべてを調べて資料を作るのが紗菜の仕事だ。

 紗菜「そういえば、さっきのクシャミはなんだったんだろう?」

 ブツブツとひとり言を呟きながらも、立ち止まることなく現地を見て回る。

 紗菜(この地域のゴミステーションは要注意。あっ、小学校は近いし歩道がしっかりと整備されている。中学校はどうだろう?コンビニやスーパーは徒歩圏内にあり)

 住んでみたら、違ったということがよくあるのだ。それが、揉める原因になることもしばしば。必要以上に細かく、先に知らせて了承を得ておくことが大事で、後々の問題が減るのだと紗菜は考えている。

 一通り見た後は、近くの公園へ行き、ベンチに座ってスマホを見ながらも、周囲の様子を観察する。今日の物件は、子育て世代の多い地域なのか、子連れの親子がたくさん遊んでいる。男性だったら、ベンチに座ってキョロキョロしていたら怪しまれるかもしれないが、紗菜は至って普通に溶け込んでいて警戒されることもない。一時間ほどそこに居座り、公園を後にする。

◯帰りの電車

 現地調査から直帰する。まだ帰宅ラッシュには早い時間の電車は、空いていて座れた。

 イヤフォンをして音楽を聞きながら、SNSサイトを開く。投稿を見てはコメントをしていく。スマホの中での紗菜は、積極的で誰にでも気軽に声をかけることができて社交的。フォロワーも多く、親しく会話できるスマホの中の世界での親友もいる(会ったことはない)。男性からも、頻繁にアプローチされるのだ。

 一方の現実の紗菜はといえば、人見知りで人と話をするのが苦手。彼氏もいなければ、目立たない存在だ。いや、わざと目立たないように、地味にしている。私生活ではコンタクトだが、仕事の日は敢えて縁の大きなメガネをかけているのだ。

 人に誇れることといえば、真面目で仕事が早く、仕事ができるところくらいだろう。

 あとは、人を観察することが好きで、本性を見抜く力は誰よりもある。だから余計に、誰とも関わりたくなくなってしまうのだ。

 途中の駅でたくさん人が乗ってきた。

 紗菜「よければお席どうぞ」
 女性「ありがとうございます」

 マタニティマークを鞄につけた女性を見て自然に席を代わる。

 スマホ依存症だが、周囲には常に気を配っている。誰にも迷惑をかけることはない。

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