【シナリオ】御曹司には興味がない〜スマホ依存症の私に執着しないで〜

第五章 痴漢撃退

〇現地調査

 次の案件の、現地調査へ出る紗菜。いつも通り、スマホ片手に調査を始める。今日は、仙石不動産の調査だけではなく、ついでに近くにもう一軒調べたい物件がある。若い女性が安心して暮らせるようにと、趣味で始めた『不安を解決ホームアドバイザーナサ』サイトが、人気で毎日たくさんの依頼がやってくる。部屋の間取りでアドバイスできるものもあるが、実際に現地に行かないとわからないこともある。現地調査が必要な依頼に関しては、紗菜が実際に行ける範囲に絞っているが、図面でわかるものは全国から相談を受ける。

 まずは、仙石の調査をするが、今回の物件は周辺環境もよく、1時間ほどですんなりと終了した。

 サイトで依頼があった物件まで行き、周辺を回る。本来、就業時間内で営利目的なら副業に当たるかもしれないが、金銭は発生していないうえに、仙石不動産はフレックスタイム制で中抜けも可能なのだ。だから、今の時間は就業内とはカウントしない。

 紗菜「……。ここは、若い女性には危ない」

 思わず声に出して呟いてしまう。駅から10分ほどだが、外灯や照明が少なく、昼間でも人通りが少ない。薄暗い公園もあって、連れ込まれでもしたら大変だ。

 紗菜「……」

 相談女性が送ってきた不動産情報は、いい事ばかりが書かれていて、悪質だと感じる。地方から、ネット情報だけを信用して契約してしまうパターンも増えているのだ。

 仙石不動産の物件は、自信をもってオススメできるが、今は契約にさえこぎ着けられたら、いいという不動産屋も少なくない。

 商店街もあるのだが、寂れていてほとんどがシャッターが閉まったままなのだ。

 サイトへ、現地調査の結果を打ち込み返信する。

 若い女性が、事件に巻き込まれることを減らしたい。

〇会社へ戻る電車

 直帰するには早すぎるので、一旦会社へ戻る。紗菜は座れたのだが、電車は途中から混みあってきている。スマホを見てコメントを入れながらも、周囲に視線を巡らせていると、顔色の悪い女性の姿に気づく。体調が悪いのかと思い、席を譲ろうと思ったが、顔色の悪い原因がわかった。
 後ろに立つスーツを着た男性の距離が、不自然に近いのだ。さり気なく、体勢を変えて見ると、男性の手が女性のお尻を触っているではないか。周囲は誰も気づいていないが、紗菜からはよく見るとわかるのだ。
 スマホのカメラを起動させて、録画ボタンを押す。電車の音にかき消されて、録画開始の合図は何とかバレずに済んだ。
 すぐに助けたいが、言い逃れ出来ないように証拠を残す。スマホを見ている振りをしながら、しっかりと男の顔も録画した。もうまもなく、駅に到着するタイミングで動く。

 紗菜「痴漢です!」

 席を立ち、女性のお尻にあった手を掴み、周囲へ知らせる。

 痴漢「はあ? 濡れ衣だ! 俺は何もしていない」
 紗菜「私はしっかり見ました!」
 痴漢「離せ!」

 紗菜の手を振り払おうとしている。駅へ着いてしまったら、逃げられるかもしれない。

 近くにいた男性「暴れるな。大丈夫ですか?」
 紗菜「ありがとうございます! 押さえていてもらえますか?」
 近くにいた男性「はい」

 痴漢を男性に任せて、痴漢に遭っていた女性に声をかける。

 紗菜「大丈夫ですか?」
 痴漢に遭っていた女性「は、はい。ありがとうございます……」

 恐怖から解放されて放心状態の女性を励まし、電車が駅へ到着するのを待つ。

 駅に到着後、痴漢を押さえていた男性、痴漢の男、紗菜、痴漢に遭った女性が電車を降りる。状況を見ていた乗客が、駅員を呼びに行ってくれた。駅員が到着後、駅長室へ向かう。

 
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