【シナリオ】御曹司には興味がない〜スマホ依存症の私に執着しないで〜

第六章 無自覚の信頼

〇駅長室

 状況を説明して、警察を呼んでもらう。その間も、痴漢をした男は抵抗を続けて、誤解だと叫んでいる声が聞こえてくる。今、動画の存在を知らせるよりも、警察の到着を待つことにする。
 紗菜と痴漢に遭った女性は別室で待機。

 紗菜「災難でしたね」
 痴漢に遭った女性「はい……。自分なら痴漢には抵抗できると思っていたんですが、実際に被害に遭うと難しいですね。声も出せなかったです」
 紗菜「そうですよね」
 痴漢に遭った女性「助けてくださり、本当にありがとうございました」
 紗菜「とんでもない。もっと早くに助けたかったのですが、証拠の動画を撮っていたので、遅くなりました」
 痴漢に遭った女性「証拠⁉」
 紗菜「はい。痴漢が素直に認めるとも思えないので、言い逃れできないように」
 痴漢に遭った女性「そうなんですね。ありがとうございます」

 警察が到着して、事の成り行きを説明。証拠動画を見せる。紗菜は、目撃者として必要事項を書類に記入して、解放された。女性には何度もお礼を言われるも、当たり前のことをしただけだと思っている。

 結局、会社へは直帰すると伝えて、そのまま帰路につく。

〇営業部

 痴漢騒ぎの翌日、何事もなかったように出社。昨日の調査結果を纏めていると、視線を感じた。

 紗菜「あの? 私に何か?」
 男性「俺のこと覚えてない?」
 紗菜「へ⁉ ん~」

 昨日のことは、すっかりと記憶の彼方へと押しやられている上に、紗菜は男性の顔を覚えるのが苦手なのだ。

 男性「忘れられてるなんて、軽くショックだな」
 営業部部長「鳥飼社長、水野と知り合いですか?」
 男性(鳥飼)「昨日、痴漢に遭っている女性を、彼女が勇敢にも助けていたんです」
 紗菜「あっ! もしかして、昨日痴漢を取り押さえてくれた方ですか⁉」
 鳥飼「やっと思い出してもらえたようで」
 紗菜「ありがとうございました」
 鳥飼「あなたの勇敢な行動を目にして、知らん顔はできませんからね。加藤部長、いい社員さんをお持ちですね。安心して、こちらへ仕事を任せられそうです」
 部長「ありがとうございます。早速、詳しいお話を」

 これから、新規取引を始めるか検討する段階の会社の社長が、営業部へ訪問していたのだが、紗菜のお蔭ですんなりと取引が決まったのだ。部長に案内されて応接室へ移動するのだが、立ち止まり紗菜へ声を掛ける。

 鳥飼「水野さん。ぜひ、今度食事でも」
 紗菜「……。ハハッ」

 面倒なことは極力避けたいが、今ハッキリと断ることのできない相手に、紗菜からは苦笑いが漏れる。


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