【シナリオ】御曹司には興味がない〜スマホ依存症の私に執着しないで〜

第九章 次なる作戦

〇社長室

 外出先から戻った翠は、今後の攻め方を考えている。すぐにでも、紗菜をものにしたいのだ。

 蓼科「水野さんのことばかり考えていないで、仕事して下さい」
 翠「……」
 蓼科「社長! 翠‼ 仕事しろよ」

 心ここにあらずの翠へ、釘をさすも効果はない。

 翠「なあ。何かいい方法はないか?」
 
 蓼科は、いつも強気な翠からの切実な訴えに、仕事をしろと言っていた気持ちも萎える。

 蓼科「仕事上の直接の接点はないですからね」
 翠「いっそのこと、秘書課へ異動してもらうか?」
 蓼科「はあ? 営業部から苦情が来るし、彼女の仕事振りからしても、今の仕事が適正でしょう」
 翠「じゃあ、どうするんだ?」
 蓼科「……」

 こんなに弱気な翠の言葉を聞くのは、知り合ってから初めてだ。

 蓼科「そうだ!」
 翠「なんだ? いい案が浮かんだのか?」
 蓼科「もうすぐ、社内表彰の時期じゃないですか! 彼女も、十分に表彰されるだけの仕事をしています」
 翠「朝陽、お前天才だ」

 今まで一緒に仕事をして来て、褒められたことがなかっただけに、驚きを隠せない。
 仙石不動産では、半期に一度、業績などで目立った成績を残した者を表彰し、社長から金一封を贈呈するのだ。営業部でも、紗菜のように営業事務的な存在の表彰は今までにはなかったが、先日の取引や調査書を見ても、十分に貢献したと言える。

 社内の全体の集会での表彰式の後、表彰者を集めて食事会が開かれるのだ。

 今回は、すでに候補が二名いて、紗菜を足しても問題ない。紗菜を表彰することで、表彰とは無縁だと思っていた社員にも可能性があるのだと、知らしめるいい機会になる。

 今は、男女や職種に関係なく、評価される時代なのだ。

〇社長室

 表彰される社員の上司が、社長室へ呼び出された。営業部から、トップ成績の男性社員と紗菜、開発部から男性社員が選ばれたのだ。

 蓼科「田中、水野、徳永の以上三名に決まりました」
 営業部部長「水野さん……」
 翠「何か文句があるのか?」
 営業部部長「いえ。寧ろ評価されるべきだと、ずっと思っていました」
 翠「今まで、目に見えた成績だけを重視し過ぎたと反省している」
 開発部部長「なるほど。女性の表彰も初めてではないですか?」
 翠「そうだな。これからは、裏で支えてくれている社員も積極的に評価したい」

 翠の言葉に、部長達は大きく頷き納得している。

 不動産業界では男性が目立つ存在だったが、紗菜をきっかけに、仙石不動産が更に注目される会社へと成長していく。
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