ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜
「い、今の宮廷錬成師って、確か『シュウ』っていう人じゃ……」
「それ偽名。行商人の息子としてあちこち旅してきたから、僕のこと知ってる奴もいると思って別名義で宮廷錬成師やらせてもらってるんだ。平民生まれの人間が宮廷に雇われてることをよく思わない人たちも多いから」
確かに妬みや嫉みの弊害を受けやすいと思う。
だからクリムという平民の名前を隠して、偽名を使っているんだ。
それはわかったけど……
「どういう経緯で宮廷錬成師なんかになれたのよ? 確か宮廷職になるには、王族との深い繋がりが必要で、その上で力を認めてもらわなきゃいけないって聞いたことある。それこそギルドで職人として認めてもらうより断然難しいって。そもそもクリムって、錬成術やってたっけ?」
思わず口早になって問いかけると、クリムの肩がビクッと揺れたような気がした。
なぜか彼は気まずそうに目を逸らし、言葉を詰まらせながら答える。
「……じ、実は僕も、昔から“趣味”で錬成術をやってたんだよ」
「えっ、そうなの? そんなこと一度も言ってなかったような……」
「言う必要がないと思ってたから言ってなかっただけだ。で、父さんの旅について行ってる間も、趣味の錬成術を続けてて、たまに僕が作ったものを父さんが商品に並べてくれることがあったんだ」
クリムは当時のことを思い出すように、裏路地の小道から空を見上げて続ける。
「それである時、たまたま僕が作ったものが王国騎士団の団長さんの目に触れることがあってね。それで僕の腕を買ってくれて、宮廷錬成師として王宮に呼ばれることになったんだよ」
「な、何よ、それ……」
そんな恵まれた偶然が本当にあるのだろうか。
趣味でやっていただけの錬成術で……
王国騎士団の人に実力を認めてもらって……
宮廷錬成師として王宮に呼ばれるなんて……
それなのに私は、小さい頃から本気で錬成術と向き合ってきたのに、徒弟期間もまともに終えられずに、アトリエを追い出されて……
「まあ、色々と運がよかったってだけだよ。僕自身、まだ身に余る職務だと思ってるし。王国騎士団のための武具を揃えたり傷薬を作ったり、毎日てんてこまいでさ。ところでそっちは……」
クリムが逸らしていた目をこちらに戻すと、途端に彼は驚いたように目を見開いた。
それもそのはず。
私が我知らず、涙を滲ませていたから。