ブラックアトリエから不当に解雇されたけど、宮廷錬成師になっていた幼馴染と再会して拾われました〜実は隠されていたレアスキルで最高品質の素材を集めていたのは私だったようです〜
クリムは、静かに話を聞いてくれた。
時折私が感情的になって、支離滅裂なことを言ってしまっても、何も言わずに小さく頷いてくれた。
やがてすべてを話し終えた時、私の心はほんの少しだけすっきりとしていた。
誰かに話すだけで、こんなにも心が軽くなるんだ。
湿っていた頬を拭いながら、一息吐いていると、そこでようやくクリムが口を開いた。
「ババロアのアトリエか。僕も名前は聞いたことがあるよ。ここ最近、急激に出品物の質が向上して、成績を伸ばしてる勢いのあるアトリエだ。あそこで素材採取係をやってたんだ」
「私がいたところ、そんなに有名だったんだ……」
「まあ、あそこの品はこの町のアトリエじゃ頭一つ抜けて上質だし、熱心な愛好家も多いから。けどその裏では工房長が徒弟を虐げてたっていうのはひどい話だ。で、どうしてそんなアトリエに入ったんだよ? 評判とか何も調べなかったの?」
「ギルドに登録した時、そこしか徒弟枠の空きがなかったんだからしょうがないでしょ。私の場合、田舎村から出て来たばかりだったから、他の錬成師との繋がりもなかったんだし」
基本的に徒弟の枠は、他の見習い錬成師たちとの取り合いになる。
そして田舎から出て来たばかりの私は、他の錬成師たちに比べて断然不利な立場になるのだ。
町で育った見習いたちは、少なくともそれなりに錬成師同士で繋がりがあるから、私よりは優遇してもらえるだろうし。
そんな中でたった一つ、入れてくれるというアトリエがあったら、飛びついてしまうのも無理はないじゃないか。
次に徒弟枠が空くのがいつになるのかまったくわからなかったし。
「まあ、場合によっては一年や二年待たなきゃいけなくなる可能性もあるらしいからね。それに下調べしたところで実態なんて簡単に掴めないだろうし。で、最悪なアトリエに入ったと」
「……そうよ。本当に最悪なアトリエにね」
徒弟としてこちらを雇ったくせに、ろくに指導もせず素材採取ばかりをやらせてくる劣悪なアトリエ。
あんなところで時間を無駄にしてしまったことが、本当に情けなくて悔しい。
「本当、何やってたんだろう私。あんなアトリエでいいようにこき使われて、ろくに錬成術もやらせてもらえないで、三年どころじゃなくて、錬成師人生そのものを無駄にしちゃった」
「……」
また瞳の奥が熱くなってくる。
残っていた感情が我知らず溢れ出てくる。
私は涙を堪えながら、自嘲的な台詞を弱々しくこぼしてしまった。
「やっぱり私、才能なかったのかな。お母さんみたいなすごい錬成師には、もうなれないのかな……」
別に、クリムに何かを答えてほしいわけじゃなかった。
ただ感情を曝け出せる相手になってくれればいいと思った。
そのまま何も言わずにいてくれたら、それでいいと思っていたのに……
クリムは、耳を疑う言葉を掛けてきた。
「じゃあ、僕のアトリエで働いてみないか?」
「えっ?」