Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「いつだったかなぁ。確か瑠維が一年生で……二学期の中間が終わったくらいだった気がする」
「えっ、一年生の時?」

 春香自身も瑠維がいつから自分を好いていてくれたのか気になっていたが、まさかそんなに早くから彼の気持ちが向けられていたとは思いもしなかった。

「瑠維は人のことをよく観察して、見極めてからじゃないと好きになれないらしい。それが佐倉に対しては、最初から興奮したりイラついたりドキドキしたり、理解出来ない感情に苛まれてからようやく自覚したらしいからね」

 思い出すのは、目が合った瞬間に逸らされてしまった思い出ばかり。そのほとんどが無表情だし、瑠維の想いは全く伝わってこなかった。

 それが瑠維らしさと言われればそうなのだが、あの頃の春香はそこまで考えられるほど瑠維を知らなかったから、彼の態度をそのまま受け取るしか出来なかったのだ。

「私、ずっと嫌われてると思ってた」
「あはは。仕方ないよ、あいつ絶対に顔には出さないから」
「で、でも! 今は瑠維くんの表情がわかるようになってきたんだから」
「でも佐倉よりは俺の方がわかると思うなぁ。何しろもう十年近く一緒にいるからね。佐倉はまだ一ヶ月ちょっとしか一緒に過ごしてないだろ?」
「とはいえ、今は瑠維くんの部屋で過ごしてるし、普段の瑠維くんは私の方が知ってるんだから」

 これが不毛な争いとわかっていても、瑠維を大切に思う気持ちは二人とも譲れず、バチバチと火花を散らす。

「はいはい、二人とも瑠維くんが大好きなのはわかったから。それより春香ちゃん、自分の家から引っ越したの?」

 そんな時、椿が苦笑しながら二人の仲裁にはいり、春香にそう尋ねる。

「ううん、今もそのままにしてある。時々荷物を取りに行ったりはしてるんだけど……」
「じゃあ瑠維くんの家にそのまま住まわせてもらうのは?」
「うーん、どうかなぁ。今勤務地の異動を相談してて、それ次第で引っ越しを考えてる」

 本音を言えば、瑠維が『一緒に住もう』と言ってくれたら……そんなことも考えていた。二人の時間が思っていたよりスムーズに流れているし、一緒にいれば安心出来る。

 ただ問題があるとすれば、ストーカーに追われたこの地に留まることへの恐怖心だった。いずれどこかで再会し、また同じことが起きたらと考えると怖くて仕方ない。

 すると博之が表情を曇らせたことに気付いた。

「あのさ、ちょっと言いにくいんだけど、瑠維の部屋に引っ越すことは考えない方がいいかも」
「えっ、どうして?」

 不思議そうに聞いた春香に、博之は言葉を詰まらせる。

 しばらく考えてから口を開くと、
「今の部屋は一時的に借りてるだけで……まぁ詳しくは瑠維に聞いてよ」
と含みのある返事をした。

 博之の口からは言えないことーーそれが一体何なのか気になった。瑠維には事件のこと以外にも秘密があるのだろうか。

「うん……わかった」

 不安に思いつつも今は頷くことしか出来ず、口に含んだ抹茶プリンも、ほんのり苦さが際立った。
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