Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
 入口の方に目を向けた瑠維の表情が突然凍りつき、みるみるうちに青ざめていくのがわかる。何かがあったことは一目瞭然だった。

「瑠維くん、大丈夫?」

 下を向いてしまった瑠維の手に触れると、小さく震えている。

 春香は彼が見ていた入口の方へ目を向けた。するとそこには一人の女性がたっていて、目を細め、まるで獲物を見つけたかのような視線を瑠維に送っていた。

 ウェーブのかかった長い髪と、強めのアイメイク、胸元が大きく空いた花柄のワンピースにコートを重ねている。

 なんて威圧的な空気を持った人だろうーー春香は一目見て、苦手なタイプの女性だと感じた。

 だがそれ以上に、瑠維がこの女性に対して恐怖心を抱いているように見えたのだ。震える瑠維の手を握りしめ、もう片方の手で瑠維の肩をさすった。

「あぁ! やっぱり瑠維じゃない! 外から見てそんな気がしてたのよ」

 やけに馴れ馴れしい様子で瑠維に話しかけるが、瑠維は今までに見たことがないような目でその女性を睨みつけたのだ。

 しかしその目を見ても、女性はただ嘲笑うだけだった。

「やーね。そんな目で見ないでよ」
「……またあなたですか。何度も言いますが、あなたには接近禁止令が出ているんです」

 瑠維が言っても、女性はバカにしたように鼻で笑う。

「あら、店で会うなんてただの偶然でしょ? そんなにピリピリしないでよ」
「偶然? よく言いますよ。これで何回目ですか? いい加減にしてください。警察に連絡しますよ」

 静かながらも、低くはっきりした声で瑠維がそう話すと、女性は唇を噛み締め、苛立ちが隠せない目で瑠維を睨みつけた。

 二人のやり取りに耳を澄ませ、瑠維の様子を注視していく。明らかに不穏な空気が流れていることは確かだった。

 彼からはとてつもない不安と怒りと警戒心が伝わってくる。彼女が一体何者なのかと考えた時、瑠維が放った『接近禁止令』という言葉で、春香にはそれがわかったような気がした。

 きっとこの人が鮎川さんとヒロくんが言っていた女性なんだ。瑠維くんに辛い思いをさせて苦しめた張本人ーー途端に春香の中に怒りと悲しみが沸いてくる。

 ただ春香はこの話を知らないことになっているし、鮎川からは口止めをされている。こんな場面で自分が事件のことを知っていると知られたら、彼を余計に苦しめることになるかもしれない。それだけは避けなければならなかった。
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