Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「あら、お友達?」

 瑠維の手がビクッと震える。きっと背後では春香を冷たい目で見下ろしているに違いない。

 春香は平静を装い、彼の手を握りしめたままその女性の方に向き直ると、ニコリと満面の笑みを浮かべた。

「こんにちは。瑠維くんのお知り合いの方ですか? こんなところで会うなんて、本当に偶然ですね」

 春香の話し方が気に入らなかったのか、女性の口の端がピクッと動いたのがわかった。なんとなくだが、相手からの敵視のような視線を感じる。しかしだからと言って、それが怖いとは思わなかった。

 こういう感覚にどこか懐かしさを覚えるーーあぁ、そうか。高校時代にヒロくんに寄ってくる女子たちに感じたものに似ているんだ。あの頃は笑顔で毒舌を吐いては、追い払っていたことを思い出す。

 近頃は仕事で女性と話す機会は増えていたが、それは店員と客の会話にすぎない。こんなふうに感情を向けられたのは久しぶりだった。

 女性は春香を上から下まで眺め、それから鼻で笑った。彼女がどのような仕事をしているのかはわからなかったが、どう見ても春香とは違うタイプの女性で、自分とは違う系統の春香を下に見たのだけはわかる。

「私は彼の大学の先輩なんです。まぁ……それだけの関係でもないけど、ねぇ、瑠維」
「やめてください!」

 大きな声を上げてしまい、周りから不思議そうな視線を向けられ、瑠維はハッとしたように顔を歪ませる。

「あなたは? 瑠維とはどういう関係? まさか付き合っているわけじゃないでしょう?」
「あの、どうして"まさか"なんですか? 私たち、普通の恋人同士ですよ」
「恋人⁉︎ あはは! あぁ、笑っちゃってごめんなさい。この子、《《夜は使い物にならない》》でしょ? あなたも困っているんじゃない?」

 瑠維は不敵な笑みを浮かべた女性に対して怒りを露わにし、伝票を取って外に出ようとした。しかしそれを春香が制する。

 瑠維の目を見て微笑むと、安心させるように頷いた。大丈夫、私が瑠維くんを守るからーー。

 ただ春香の中の怒りは頂点に達しようとしていた。鮎川は瑠維が監禁されている間に何があったかはわからないと言っていた。しかし今の言葉を紐解いていけば、一つの出来事が想像される。

 瑠維くんは今まで私以外に付き合ったことはないと言っていたし、この間が初めてだとも話していた。

 それなのにこの人は『夜は使い物にならない』と言ったのだ。それはつまり、そういうことをしようとしたけど、出来なかったことを意味するーー。

 頭の中に最悪の光景が浮かんだ。もしかして無理矢理……いや、これはただの私の想像。でももし事実ならば許せない。
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