Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
 春香は自分の頬に手を当て、照れたようにわざととぼけたフリをする。

「何のことを言っているのかわからないんですが……瑠維くんは本当に元気過ぎて困っちゃうくらいですよ。こんなに体力があるなんてびっくりしちゃった」

 受け取り方次第でどうにも取れるような曖昧な言葉を選んでいく。

 女性の唇がわなわなと震え、驚いたように瞳が見開かれた。特にこういう女の子を前面に出すタイプが嫌いに違いない。それを感じていたからこそ、春香はわざとそんな話し方をする。

 その時に春香の頭にあることが思い浮かんだ。瑠維に事件について知っているという事実を隠しながら、この女性を撃退することが出来る一言。

「あぁ、瑠維を守るための嘘なんでしょう? 付き合いたて? 本当に健気ねぇ。庇ったところでどうにもならないだろうけど」

 吐き捨てるように言った女性に対し、春香はさらに笑顔を向ける。

「あら、私はあなたより前から彼を知ってるんです。だって私、彼の《《高校の先輩》》ですから」
「高校の先輩?」

 春香の想定通り、女性の顔が少し曇った。

「失礼だけど、あなたお名前は?」
「あぁ、ごめんなさい。自己紹介していませんでしたね。私はーー」

 春香は深呼吸をしてから、
「佐倉初夏っていいます」
と答えた。

 その発言に驚いたのは女性だけではなかった。瑠維も驚いたように春香を見つめる。

「初夏……? う、嘘つくんじゃないわよ! 」
「嘘? 何故嘘をつくんですか?」

 首を傾げた春香の肩を、女性は鬼のような形相で掴みかかる。

「その手を離してください!」
「瑠維くん、大丈夫だからちょっと待ってね」

 止めようとした瑠維を再び制すると、春香は女性の方を向いた。それから真顔に戻し、女性の耳元に唇を近付ける。

「あなたこそ、どうして嘘だと思うの?」
「どうしてって……」
「"初夏"がいるもいないも、それはファンたちの議論であって、瑠維くんは何も言及していない。あなたがいないと言うのは、いるという事実を認めたくないからじゃないですか?」

 図星だったのか、女性がカッと目を見開いた。
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