Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「あ、あんた、何様のつもり⁉︎」
「……さぁ、別に何様でもいいじゃないですか。強いて言うなら、自分の感情のために誰かを貶めるようなことをする人が好きじゃないだけです。瑠維くんを大切に出来ない人は、瑠維くんのそばにいるべきじゃないと思います」

 春香が離れると、女性は悔しそうに下を向き、拳をわなわなと震わせている。

 今も瑠維くんを苦しめているのに、どうしてこの人がそんな堂々と生きているのかがわからない。私の方が悔しいわよーーだけどそんなことは口に出来ず、感情的にならないよう怒りをグッと堪える。

 春香はカバンからスマホを取り出すと、不安げな表情を浮かべている瑠維に手渡した。

「じゃあそろそろ……電話する?」
「ま、待ちなさいよ! 偶然だって何回も言ってるじゃない!」
「そうなんですか? それならそろそろお引き取りくださいね。あなた、すごく注目されていますよ」

 その言葉を聞いた途端、女性は勢いよく店内を見渡す。すると店内にいた客のほとんどがこちらを見ていたことに気付き、顔を真っ赤に染めた。

 もしかしたら今までは瑠維が一人でいる時を狙ってやって来ていたのかもしれない。騒ぎになりたくない瑠維なら、すぐにその場を後にしただろう。

 でも今回は違うーー私を守ってくれた瑠維くんを、今度は私が守ると決めたんだから。

「わ、わかったわよ。今日はもう帰るからーー」
「もう二度とお会いすることがないよう、祈っています」

 女性は唇を噛み締めて春香を睨みつけると、(きびす)を返し、勢いよく店から出ていった。その背中を見送った春香だったが、なかなか瑠維の方に向き直ることが出来ずにいた。

 小声で話したつもりだった。でも話した内容を振り返ってみれば、あの事件についてまるで知っているかのような文言が目立つ。

「春香さん」
「は、はいっ⁉︎」

 恐る恐る瑠維の顔を見てみれば、口元に笑顔を浮かべていた。

「ご迷惑をおかけしてしまってすみません」
「全然だよ! 私こそ余計なこと言っちゃったかも……ごめんね」
「大丈夫です。それにしても……久しぶりにあの頃の春香さんを見た気がしました。今も強気の春香さんは健在でしたね」

 それは褒められているのか貶されているのか、わからなくて眉間に皺を寄せた。

「もちろん褒めてます。さぁ、そろそろ帰りましょうか」

 瑠維は伝票を手に取ると、レジに向かって歩き出したため、春香は慌てて荷物を持って彼を追いかける。

 平静を装っているけど、きっと苦しいよね……。私に出来ることがあるだろかーーそんなことを考えながら、瑠維を抱きしめたい気持ちをグッと抑え込んだ。
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