Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
* * * *

 公園を出て駅に向かって歩いていたが、たまたま通り沿いにタクシーが通りかかったのを見つけた瑠維が、
「春香さん、タクシーで帰ってもいいですか?」
と言った。

 タクシーに乗り込み、走り出すのを確認すると、瑠維は大きなため息をついて項垂れた。

「すみません。なんとなく疲れてしまって……もう少しお店を回ったりしたかったですよね」
「ううん、大丈夫だよ。お出かけなんていつでも出来るし」

 そんな瑠維の頭をそっと撫でると、珍しく彼の方から春香の肩に寄り掛かる。静かな時間の中で、聞こえるのは車のエンジンとブレーキの音だけだった。

 マンションの前にタクシーが到着し、カードで支払いを済ませた瑠維と手を繋ぎ中へ入る。力がなくなってしまっている瑠維に代わってオートロックを開錠してから、自動ドアを抜けた。

 エレベーターを降りて部屋に入った瞬間、瑠維に背後から抱きしめられた。

 体勢を変え、瑠維の方に向き直った春香だったが、肩に顔を埋められてしまい、表情を見ることは出来なくなる。

 もしかして顔を見られたくない? 今までの瑠維からは想像もつかないくらい弱気になっている彼を、どうしたら元気付けられるのだろう。

 話を聞きたいと思っても、瑠維がどこまで察しているのかがわからなければ、余計なことは言わない方がいいに決まっている。

「瑠維くん、上着を脱いで。とりあえずリビングに行こう」

 瑠維の背中を優しく叩くと、顔を上げた瑠維が頷き上着を脱ぎ始めたので、それを受け取って瑠維の書斎に持っていく。

 クローゼットに上着をしまってからリビングに戻ると、ソファに倒れ込んでいるのが見えた。その姿が痛々しくて、春香の胸がツキンと痛む。

 彼の苦しさや辛さを全て受け止めてあげられればいいのにーー。もし数年後、自分の前にあの男が現れたらどう思うだろう。考えるだけでもぞっとした。

 春香は瑠維の前に跪くと、彼の手を取って顔を覗き込んだ。

「何か飲みたいものとか、食べたいものはある?」
「いえ……大丈夫です」

 すると瑠維の手がずっと伸びてきたかと思うとヒョイと抱き上げられ、彼の膝の上に座らせられる。腰を腕を回され、身動きが取れなくなってしまった。
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