Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
 瑠維は春香の方を向くと、緊張を紛らせるように深呼吸をする。その姿を春香は黙って見守っていた。

「僕があの人から逃げた話はしましたよね。僕はずっとあの人が怖かった……だからあの人がいない、こことは違う場所に逃げようと決めたんです」
「違う場所……?」

 彼は頷き、静かに俯いた。

「春香さんは引っ越したいと言っていたのに、僕がこの部屋へ誘わなかったのはそれが理由なんです」

 それはずっと春香も気になっていたが、博之から何か理由があることは知らされていたから、どんな理由にせよ心のどこかで覚悟はしていた。

 瑠維は顔を上げ、先ほどよりも強く春香の手を握りしめた。

「隣の県の海沿いの街に、セキュリティのしっかりした住宅街があるんです」

 瑠維はスマホを開き、その街が紹介されたサイトを春香に見せた。それは高級住宅地として紹介されている場所だった。

「もう少ししたら購入した家のリフォームが終わるので、タイミングを見てそちらに引っ越すつもりです」
「購入した家……?」

 驚きを隠せない春香に、瑠維は僅かに微笑んだ。

「驚きましたよね」
「うん、まさかそういう展開だとは思っていなかったから……いつ買ったの?」
「今年の初めです。友人との飲み会にあの人が乱入してきてーーどうやら何も知らなかった後輩が予定を漏らしてしまったようなんですが、もうあの頃の人間とは関わらずに過ごしたいと思って、知り合いのいない場所で再出発をしようと調べ始めたんです」

 瑠維の手が春香の髪に触れ、ゆっくり優しく撫でていく。でも時折自信がなさそうに止まる手からは、彼の抱える不安が感じられた。

「内装のリフォームが決まって、工事も始まって、それを池田先輩に報告したその日に……」
「もしかして、それがあの日?」

 思い出されたのは、二人が博之の店で再会した日のことだった。春香がハッとしたように声を出すと、瑠維は頷く。
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