Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
* * * *

 仕事場に出勤してからも、昨夜の瑠維との会話を思い出しては胸が苦しくなる。

 ぼんやりと準備をしている間に、デパートの開店時間を知らせる放送が流れ始めた。慌てて客を迎えるためにカウンター前に立つと、一目散にこちへやってくる女性の姿が目に入った。

「おはよう、佐倉ちゃん!」
「斎藤様! いらっしゃいませ。今日はお早いんですね」
「これから出かけなくちゃいけなくて。でも昨日来たら佐倉ちゃんがお休みだったから」
「えっ、わざわざ私に会いに来てくださったんですか?」
「そりゃそうよ! じゃあいつものスキンケア一式をお願いしてもいい?」
「はい、もちろんです。今から準備しますね」

 春香は斎藤をカウンターまで案内すると、カルテを確認しながら化粧水、乳液、美容液を棚から取り出す。

 しかしどこかそわそわした様子で座っているのを見て、彼女が急いでいることがわかった。ふと見てみれば隣の席には大きな旅行カバンが置いてあり、これから出かけるのは確かなようだ。

「これからどこか行かれるんですか?」
「そうなの。娘が今日の午後から出産のために入院するから、上の子のお世話を頼まれちゃって」
「そうだったんですか! それは急がないと」

 春香が慌てて商品の確認をしようとするのを、斎藤は笑いながら制した。

「あぁ、そんなに慌てなくて大丈夫なの。快速に乗って行けば一時間くらいで着くし」
「でもお孫さんが生まれるのなら、もう少し近い方が嬉しかったりしますか?」
「それがそうでもなくて。あまりお世話ばっかりだと疲れちゃうし、これくらいの距離感が意外と楽だったりするのよぇ」

 会計作業を済ませて商品を袋に入れていく。斎藤の本音を知り驚きつつも、彼女らしさも伝わってきてクスリと笑ってしまう。

「それに引っ越しを決めたのはあの子の方だし。彼のそばにいたいんですって。住む場所の問題じゃなくて、一緒にいることが大事だからって」

 住む場所じゃなくて、一緒にいることーーそれをすぐに決断できた娘さんは本当にすごいと思った。

 商品の入った袋を手にして、店先まで見送りに行く。

「佐倉ちゃんも一度遊びに行ってみたら! 海が近くてすごくいいところよ〜」

 その時彼女がふと口にした地名。それは瑠維が家を購入したという場所だった。
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