Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
* * * *

 昼休憩の時間になり、春香はロッカールームに戻る。案の定そこには店長の瞳が出勤の準備をしているところだった。

「店長、おはようございます」
「あぁ、佐倉さん、おはよう。これからお昼?」
「そうなんですけど……少しお話があって」

 瞳は目をパチリと開いて春香を見ると、何かを察したかのように微笑んだ。

「異動のこと?」
「はい。まだ間に合うのなら勤務地の希望を変更したくて」
「むしろこの辺りでは空きがなくて保留になっていたのよ。だからまだ大丈夫だと思う。どこがいいのかしら」

 間に合ったことに安堵した春香は、瑠維の新居がある地名を口にした。すると瞳は驚いたように身を見開いてから、ニヤリと笑う。

「年下くんと何かあった?」

 瞳にはお見通しだったようで、春香は頬を真っ赤に染めて俯いた。

「あのっ……実は一緒に暮らそうと言われまして……」
「ほうほう。でもどうしてこの地区なの?」
「彼が以前に購入した家がこの地区なんです。今はリフォーム中で、いつかはそこに引っ越すようなので、それなら私もーー」
「ん? ちょっと待って。買った家で同棲ってこと? それだけ? プロポーズをされたわけじゃないの?」
「えっ⁈ ち、違います!」

 春香の慌て振りから、それが事実であることは伝わってる。しかし瞳は苦笑いをしながら、春香の肩を叩いた。

「結婚するわけじゃないのに、こんな遠くに異動になっても大丈夫なの?」

 瞳が言いたいことはわかる。恋人の延長線上にある同棲という関係。いつ終わるかもしれないもののために、今の地を離れる意味があるのかと問われているようだった。

「不安がないと言えば嘘になりますが、やっぱり今は彼といたいんです。それに……これは私の勝手な願望ですけど、これが最後の恋になるといいなぁという希望も込めてます」
「そっか。佐倉さんの中では意思が固まってるのね」
「はい」
「それなら早速希望を出しましょう! いいところが早く見つかるようにね」
「ありがとうございます!」

 春香は満面の笑みで瞳に頭を下げた。決まるかどうかはわからないけど、一つの希望が見え始めた気がした。
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