Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
 エレベーター部屋までの通路も屋内のため、外からの視線や外気を気にせず部屋まで辿り着ける構造のマンションだった。

 プールやジムもあるというからそれも当たり前かもしれないが、春香にとっては全てが新鮮に映る。

 正面に伸びる通路を歩き始めてすぐに瑠維の足が止まる。ポケットからカードキーを取り出すと、ドアノブ付近にかざす。すると解錠された音がし、瑠維はドアを開けて春香を中へと促した。

 玄関を入ってすぐ右側にシューズクロークらしきスペースがあったが、中は特に靴がたくさんあるわけでもなく、がらんとした空間が広がっていた。リビングまでの廊下やドアは全てダークブラウンで統一され、シックな雰囲気が漂っている。

「どうぞ」

 瑠維はシューズクロークからスリッパを持ってくると、春香の前に並べた。

「あ、ありがとう。なんか立派なマンションだから、ちょっと気後れしちゃうね」
「それは……きっと見た目だけです。部屋の中は空っぽに近いので、よくこれで暮らせるなっていわれますから」

 歩き出した瑠維の後を、スリッパを履いた春香が追いかける。

 そしてリビングに着いた時、彼の言葉の意味がわかった。黒でまとめられたソファ、ローテーブル、テレビ台。ダイニングにも同色のテーブルと椅子。キッチンまで目を凝らせば、食器棚と冷蔵庫まで全て黒一色だった。

 だが彼の家のリビングダイニングにはそれしかなかった。つまり家具以外は、瑠維を表現するものは何も置かれていないのだ。

 『よくこれで暮らせるな』とは、生活感のなさを言い表していたのだろう。ただ春香には、それこそが瑠維らしさのようにも感じた。

「なんか……高校生の時の瑠維くんを思い出しちゃった」

 頭に蘇ってくる瑠維の姿。

「そうそう、思い出した。瑠維くんって持ち物が全部黒一色だったから、『黒が好きなの?』って聞いたことがあるの。そうしたら瑠維くん、『好きとかではなくて効率が良いんです。汚れを気にしなくていいし、何にでも合わせられる。余計なことを考えなくていい』って答えたの。覚えてる?」
「……よく覚えてますね」
「なんか瑠維くんと話してたら思い出してきた! 私たち、意外と話してたのかな?」
「さぁ……どうだったかな」
「やっぱり黒で統一している理由は同じ?」

 春香が聞くと、瑠維はサッと目を逸らす。何か悪いことを聞いてしまったのかと不安になった。

 しかし彼がキッチンの冷蔵庫の方へ歩いて行ったのを見て、何か取りに行ったのだと気付くと、そっと胸を撫で下ろす。
< 33 / 151 >

この作品をシェア

pagetop