Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
 頭も体も自分の置かれている状況が危険であると察知し、必死にドアを閉めようと試みるが、足が挟まれていては閉めることは不可能だった。

「やっと帰ってきたんですね。おかえりなさい」

 ドアの隙間から声が聞こえて、春香は恐る恐る顔を上げる。するとそこにはニヤっと笑みを浮かべた町村が、ドアの隙間から顔を覗かせていた。

「……!」

 声にならない声をあげた途端、町村の手によって勢いよくドアが開かれ、恐怖に怯えた春香は部屋の中へと逃げ込む。

「で、出ていってください! 大声で叫びますよ!」

 どうしよう……部屋の中なんてどこにも逃げ場がないのに……!

 照明をつける時間がなく、部屋は真っ暗なままだった。しかし町村が土足で部屋にあがり、楽しそうに近付いてくる姿が、春香の目にはっきりと不気味に映る。

 少しずつ後退りしていたが、ベッド前で行き場をなくし、慌てて助けを求めようと窓を開けようとしたが、
「動くな!」
と怒鳴られ手を止めてしまった。

 震えが止まらない、息が出来ない、怖い怖い怖いーー!

「静かにしてくれよ。ただ話をしているだけじゃないか」

 町村は嬉しそうに微笑み、更に春香に近づいて来る。

「あぁ、やっと二人きりになれた。最近は邪魔する奴が多くて腹が立っていたんですよ」

 町村は持っていたカバンを床に置くと、中から紙袋を取り出す。それは春香が勤める店のショッパーだった。

「これ、あなたへのプレゼントです。つけてるところをもう一度見たいなぁ。だってよく似合っていたから」

 春香のすぐ目の前まで歩いてくると、彼女の手にギュッと押しつける。震える手で袋の中を確認すると、初めて春香が町村の接客をした時の口紅が入っていたのだ。

「これ……奥さんにって……」

 すると町村は大きな声で笑い出す。その笑いの意味がわからず、春香は眉間に皺を寄せた。

「妻なんていません。そもそも結婚していないですから」
「えっ……」

 そう言って突然春香の髪に手を触れて来たものだから、体中に悪寒が走り、彼の手から逃れるようにベッドとは反対の壁の方へ移動する。

 それが気に食わなかったのか、町村は舌打ちをしてから、春香の動きを封じるように両手で壁に手をついた。

「ずっと見てたんだ、知らないだろ? 君があの店舗に来てから、いつも見てたんだ。帰りだって追いかけていたから、家なんかとっくに知ってたよ」

 初めて知る事実に、ただ愕然とした。

「なのにやっと君に近付く勇気が出た途端に……なんなんだよ! あの男は! 君は俺のものなのに、勝手に横から出てきて我が物顔なんてあり得ないんだよ!」

 町村は春香の手から袋を取り上げると、中から口紅を取り出して彼女の唇に塗ろうとする。だが春香が顔を背けて拒絶したため、口紅を床に向かって叩きつけた。
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