Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
* * * *

 警察官からの聴取を受けている間も、瑠維は何も喋らず、ただ春香の隣にいてくれた。

 今までの出来事、そして今日のことを伝えていると、時間はあっという間に過ぎて日付が変わっていた。

「ではまたこの件に関して連絡がいくと思いますので」
「はい、わかりました」

 まだこの件は終わってはいない。むしろこれからが長いのかもしれない。警察官の話を聞いて、春香はそう感じていた。

 警察官は春香の部屋から引き上げ、ドアを閉めようとした時だった。先ほどの記憶が蘇り、体に悪寒が走った。そのことに気付いた瑠維が代わりにドアを閉めて鍵をかける。

 春香がベッドに腰を下ろすと、瑠維は窓辺に近寄りカーテンを閉めた。静かになった部屋には、春香と瑠維の二人だけ。時計の音だけが響き渡る。

「あの男は捕まったし、春香さんが不安になるものはなくなりましたね」
「うん……そうだね。それはちょっと安心」

 笑顔を作ろうと頑張ってみたが、心からの笑顔にはほど遠かった。

 自分の部屋を見渡してみる。いつもの部屋と何も変わらないのに、所々で町村の言動が呼び起こされていく。

 植え付けられた記憶というものは、そう簡単には消えてはくれないだろう。自分の部屋に居たくないと思ったのは初めてのことだった。

 次の引っ越し先を探すと言っても、すぐに見つかるかわからない。ホテルなんて泊まったらあっという間に残金が底をつく。ここにいる以外の選択肢はないのだろうか。

 大きくため息をついて下を向いた春香の前に、瑠維が跪く様子が視界に入ったが、顔を上げる気にはなれなかった。

「春香さん、しばらく僕の家に来ませんか?」
「……えっ……」

 彼の言葉の意味を理解するのにかなりの時間を要した。黙って考え込んで、意味がわかってからはどうしたらいいのか悩み始めた。

「ここは先輩の部屋ですが、もう《《以前と同じ部屋ではありません》》。あの男が入り込んだ部屋になってしまった。そんな辛い場所に留まることはないんです」
「えっ……でも……そこまで迷惑かけられないし……」
「春香さん」

 おずおずと顔を上げると、瑠維が真っ直ぐ春香を見つめていた。
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