Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「泳ぎますか? 今なら誰もいないので、自由に泳げますよ」

 瑠維に言われてプールを見渡すと、確かに誰もいなかった。誰かがいると思って来たのに、やはり二人きりになってしまう。

「瑠維くんってガッツリ泳ぐ感じ?」
「そうですね、まとめて泳いで帰ることが多いです」
「なるほど。私は結構のんびり泳いだりするタイプだから、瑠維くんは好きに泳いできていいよ」
「……わかりました。でも部屋に帰りたくなったら言ってくださいね」

 そう言い残すと、瑠維はプールに入って泳ぎ始める。プールの縁に腰をかけ、そんな瑠維の姿をぼんやりと眺めていた。

 引き締まった体、力強い泳ぎーー男性らしい一面を目にして、心臓が早鐘のように打ち始める。体の奥が火照り、胸が苦しくなる感覚。

 さっき彼の小説を読んだから、どこか気持ちが高揚している。頭を冷やそうとして、春香は水の中に飛び込んだ。

 こんな気持ちになるのは正直初めてのことだった。博之を好きだったのは高校生の時。もちろん抱いていたのはプラトニックな恋心のみで、ただ恋人同士になりたいと心から願っていた。

 しかし今回は始めからおかしい。瑠維を意識し始めてからずっと、体の奥がキュンとする。

 どうしよう……これじゃあただの欲求不満みたいじゃない。

 水から顔を出した春香は、ゆっくりとプールサイドへ上がると、縁に腰を下ろして瑠維の泳ぎをぼんやりと眺める。星空をバックにクロールで泳ぐ姿は、どこか幻想的にも見えた。

 恋は盲目とはよく言ったものだわ。こんなに素敵な人がそばにいたのに、私の目にはヒロくんしか映っていなかったんだから。

 プールの壁にタッチをした瑠維は、一度泳ぐのをやめて水面から顔を出すと、春香の姿を確認するように振り返る。

 春香は自分の居場所を伝えるように小さく手を振ると、瑠維は再び潜って、水中を移動しながら春香の元へとやって来た。

「お疲れ様」

 瑠維は濡れた髪を掻き上げながら、プールの縁に座る春香の前に立つ。

「瑠維くん、本当に無心になって泳ぐんだね。息とか苦しくないの?」
「いえ、全く。春香さんは泳げましたか」
「うん、少しだけ。でも夜景とか瑠維くんの泳ぎっぷりとか、すごく素敵で見入っちゃった」

 すると瑠維は春香の瞳を真っ直ぐに見つめてくる。ドキッとした春香は急に恥ずかしくなって、瑠維の目を直視出来ずに俯いてしまった。
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