Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
「本、読まれたんですよね」
春香はその言葉を聞いて硬直し、それから困ったように視線をぐるぐる移動させる。足で上手く隠したつもりだったが、やっぱり見られていたようだ。
「鮎川さんですか……」
どう答えようか悩んだが、隠すのもおかしい気がして、そのまま素直に答えることにした。
「私、瑠維くんが作家だって知らなくて……それで教えてくれたの。新人賞を受賞した作品はかなり話題になったって聞いて……鮎川さんが私に読んで欲しいって言ったから、気になってすぐに買いに行っちゃった」
春香が話している途中から、瑠維の手がゆっくりと腰に回され、恥ずかしくてパンクしそうになる。
「読んでみてどうでしたか?」
「……すごく切なかった……」
その時、プールのドアが開く音がした。誰か来たのかもしれないーーそう思った瞬間、瑠維に腰を引っ張られ、春香の体は水の中に引き摺り込まれてしまう。
バランスを崩し、呼吸をするのを忘れた春香は瑠維の首に抱きついた。しかし落ちた時に彼の膝が足の間に差し込まれ、跨るような態勢になる。
思ったよりも安定していたが、股の間に瑠維の足を感じ、春香の体は強張った。
驚いて声をあげそうになったが、瑠維が人差し指を立てて制したため、唇をキュッと結んだ。
「あったかー?」
プールの外から男性の声が響いたかと思うと、
「あ、あったー!」
と、女性の声が続く。
先ほど更衣室で会った女性だろうか。どうやら何か忘れ物をして取りに戻ったらしい。少しずつ男女の声が遠退き、やがて聞こえなくなった。
瑠維がホッとしたように人差し指を離すと、二人の視線が絡み合う。
瑠維の腕に包まれ、足の間に彼を感じ、体中が熱くなって心臓が大きく鳴り続いている。
「び、びっくりしたよ! 急にどうしたの?」
なんとか平静を保ちながら笑顔を作るが、瑠維は春香の肩に額を付けるように俯いた。
「僕の勝手な嫉妬です……」
「……嫉妬?」
「春香さんの水着姿を誰にも見られたくなかったから……」
ふと見てみれば、瑠維の耳が真っ赤になっているのがわかる。それにつられて春香の顔も真っ赤になっていく。
もしかしてーーそう心に抱いていた憶測が、ゆっくりと確信へと変わっていくのを感じた。
春香は瑠維の髪をそっと撫でながら口を開く。
「あの……それって、その、もしかして……瑠維くんは私のことが好きだったりする……?」
躊躇いがちに顔を上げた瑠維は、潤んだ瞳でじっと春香を見つめる。
「本、読まれたんですよね。それなら僕の気持ちは伝わったと思いますが」
「で、でも……ずっと会っていなかったしーー」
信じられないけど、信じたい気持ちが入り混じり、嬉しさで心が溶けそうになった。
「言ったはずです。僕は好きになるのに時間がかかるって。春香さんを好きだと自覚した後、誰と会ってもあなたと比べてしまうし、あなたよりも素敵だと思える人に出会えなかった」
瑠維の手が春香の頬に触れる。冷たい水のなかにいるのに、指先はジンジンするほど熱かった。
春香はその言葉を聞いて硬直し、それから困ったように視線をぐるぐる移動させる。足で上手く隠したつもりだったが、やっぱり見られていたようだ。
「鮎川さんですか……」
どう答えようか悩んだが、隠すのもおかしい気がして、そのまま素直に答えることにした。
「私、瑠維くんが作家だって知らなくて……それで教えてくれたの。新人賞を受賞した作品はかなり話題になったって聞いて……鮎川さんが私に読んで欲しいって言ったから、気になってすぐに買いに行っちゃった」
春香が話している途中から、瑠維の手がゆっくりと腰に回され、恥ずかしくてパンクしそうになる。
「読んでみてどうでしたか?」
「……すごく切なかった……」
その時、プールのドアが開く音がした。誰か来たのかもしれないーーそう思った瞬間、瑠維に腰を引っ張られ、春香の体は水の中に引き摺り込まれてしまう。
バランスを崩し、呼吸をするのを忘れた春香は瑠維の首に抱きついた。しかし落ちた時に彼の膝が足の間に差し込まれ、跨るような態勢になる。
思ったよりも安定していたが、股の間に瑠維の足を感じ、春香の体は強張った。
驚いて声をあげそうになったが、瑠維が人差し指を立てて制したため、唇をキュッと結んだ。
「あったかー?」
プールの外から男性の声が響いたかと思うと、
「あ、あったー!」
と、女性の声が続く。
先ほど更衣室で会った女性だろうか。どうやら何か忘れ物をして取りに戻ったらしい。少しずつ男女の声が遠退き、やがて聞こえなくなった。
瑠維がホッとしたように人差し指を離すと、二人の視線が絡み合う。
瑠維の腕に包まれ、足の間に彼を感じ、体中が熱くなって心臓が大きく鳴り続いている。
「び、びっくりしたよ! 急にどうしたの?」
なんとか平静を保ちながら笑顔を作るが、瑠維は春香の肩に額を付けるように俯いた。
「僕の勝手な嫉妬です……」
「……嫉妬?」
「春香さんの水着姿を誰にも見られたくなかったから……」
ふと見てみれば、瑠維の耳が真っ赤になっているのがわかる。それにつられて春香の顔も真っ赤になっていく。
もしかしてーーそう心に抱いていた憶測が、ゆっくりと確信へと変わっていくのを感じた。
春香は瑠維の髪をそっと撫でながら口を開く。
「あの……それって、その、もしかして……瑠維くんは私のことが好きだったりする……?」
躊躇いがちに顔を上げた瑠維は、潤んだ瞳でじっと春香を見つめる。
「本、読まれたんですよね。それなら僕の気持ちは伝わったと思いますが」
「で、でも……ずっと会っていなかったしーー」
信じられないけど、信じたい気持ちが入り混じり、嬉しさで心が溶けそうになった。
「言ったはずです。僕は好きになるのに時間がかかるって。春香さんを好きだと自覚した後、誰と会ってもあなたと比べてしまうし、あなたよりも素敵だと思える人に出会えなかった」
瑠維の手が春香の頬に触れる。冷たい水のなかにいるのに、指先はジンジンするほど熱かった。