Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
 春香はもう一つ瞳に伝えることがあったため、話を切り出す。

「あの、店長。もう一つお話ししたいことがありまして」
「もしかして異動とか?」
「……はい。ここはすごく好きな場所なのですが、それと同じくらい怖い記憶も残ってしまっていて……」
「そうね。それは仕方ないかもしれないわね。わかったわ。その方向で話をしてみる」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」

 春香は頭を下げると、急に寂しさが込み上げてくる。

「でもせっかく付き合い始めたのに、異動でも大丈夫なの?」

 瞳にそう言われ、春香はキョトンとした顔になる。瑠維と付き合うことになる前から異動について考えていたからか、彼と繋げて考えていなかったのだ。

「そういえばそうですね……」

 付き合い始めたのに、いきなり遠距離恋愛になる可能性もあるかもしれない。

 ただ春香とは違い、瑠維はそのことに気付いていたはずだ。それなのに彼は何も言わなかったーー何故だろう。

 でも異動の話をした時に付き合っていることを確認したり、何かを言いたそうな空気を感じた。彼なりに何かを考えていたのだろうか。

「あら、そこはまだ話し合ってないの? 大事なことだし、付き合い始めなら尚更ね。一度ちゃんと話し合ってみたら?」
「……そうします」

 彼は何が言いたかったんだろう……あの時に何を思ったのか、ちゃんと気づいて聞ければ良かったのにーー。

「でも佐倉さんには良い転機かもしれないわね」
「転機……ですか?」
「えぇ。だって佐倉さんってお客様からのメイクの評判がいいし、ライバル会社の商品のチェックも怠らないでしょ? それを踏まえてうちの商品をお客様に提案出来る美容部員って、なかなか貴重だと思うの」

 瞳がそこまで自分のことを見てくれていたことに喜びを感じながらも、自分は美容部員以外にやりたい仕事がないのも事実だった。

「ありがとうございます。これからも精一杯頑張ります」

 瑠維のことが引っかかりつつも、それが春香の心からの返事だったので、瞳も納得したように頷いた。
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