Love is blind〜無口で無愛想な作家は抑えられない独占愛を綴る〜
* * * *

 催事場で物産展をやっていたためか、午後になると買い物を終えた客が店にやってきて、少しばかり忙しくなる。

 それが落ち着き始めた夕方に、店先に見覚えのある女性が立っているのが見えた。それは昨日のスーツ姿とは違い、白いニットにデニム、トレンチコートを着た鮎川だった。

 驚いた春香は鮎川の元へ駆け寄るが、何故彼女がこの店を知っているのか不思議に思い、少しばかり警戒してしまう。

 瑠維くんが伝えたのだろうかーーだとしても、どうして彼女が私に会いにくるの?

 春香が鮎川に向かって頭を下げると、彼女も軽く頭を下げた。

「鮎川さん、ですよね? あの、昨日は瑠維くんのことを教えてくださってありがとうございました」
「いえ、こちらこそ突然すみませんでした。本を読んでくださったそうですね。先生から伺いました」
「つい気になって……あれからすぐに買いに行ってしまいました」

 それから春香の疑問に答えるかのように、鮎川が口を開く。

「何故私が来たのか不思議、という顔をされてますね。あなたのことを先生に聞いたわけではないのでご安心ください。たまたま隣のお店で化粧品を購入してるんです。買い物に来たら佐倉さんのお姿が見えたので、こちらに立ち寄らせていただきました」
「そうだったんですか」

 満面の笑顔の裏で、鮎川がライバル店の客だということが気になってしまう。

 いや、あちらの会社のアイシャドウのパレットは使い勝手がいいし、ファンデーションのカバー力は素晴らしい。

 でもうちの会社の口紅は長時間でも落ちにくいし、ファンデーションのきめ細やかさは、どこのものより毛穴を目立たないし、艶やかな肌にしてくれる。

 是非うちのも使って欲しいーーそう思うものの、瑠維の仕事の関係者だし、そこまで踏み込んでいいのか迷ってしまう。

 すると鮎川は棚に並んでいたアイシャドウのパレットを眺めながら、
「この商品、コマーシャルで見てから気になっていたんです。試すことはできますか?」
と春香に話しかける。

「も、もちろんです! コマーシャル見ていただけたんですね。嬉しいです。どちらのお色味がお好みですか?」
「そうですね……あまり派手なのは好きじゃなくて」
「ではこちらのマットなカラーのものはどうでしょう。きっと肌色にも合うと思いますよ」

 鮎川は春香が紹介した商品をじっと見つめてから頷く。

「じゃあこちらでお願いします」
「かしこまりました。ではこちらへどうぞ」

 春香は商品を手に取ると、鮎川をカウンターへと案内した。
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