甘美な果実
¿
 引っ越すことにした。そろそろ身動きが取れなくなってくるかもしれないと思い、今後も安全に美味しいケーキを食べ続けるためにも、引っ越すことを決めた。仲良くなりたいと思っていた瞬くんと繋がれたことも、その理由の一つだった。瞬くんを連れて新しい場所で一緒に過ごす。俺が用意したもので食事をして、その日の出来事を話して、いつか盛り上がれるような関係になりたい。今はまだ瞬くんの調子が優れず、若干の人見知りも入っているのか、俺の理想の関係にはなれていないが、そこは焦らずじっくり詰めていけばいいだろう。何の問題もない。

 今夜は、高級なケーキを食べる日だった。俺は心臓を。瞬くんは首を。瞬くんにも話してから、夜職に行くように外出した。瞬くんの応答はほぼなかったが、きっと楽しみにしてくれているはずだ。ケーキの首を食べて、早く元気になってもらいたい。

 ケーキを食すのは数ヶ月に一度。頻繁に食べていては、すぐに食糧は尽きてしまう。ケーキの数はフォークよりも少ないのだ。それくらい貴重な食糧なのだ。希少価値があるために争奪戦になりそうなものだが、俺みたいなフォークは珍しい部類に入るとされているためか、大きな抗争などは起こっていなかった。不思議だった。どこが珍しいのか。フォークの人間は誰だってケーキを食べているはずなのに。食べているから生きられているはずなのに。

 恋人でもないケーキを強姦して食欲を満たすようなフォークもいる中、そのようなフォークはテレビでもあまり報道されない。最近のニュースは、専ら連続殺人鬼のことばかりだった。犯人は未だに分かっていない。でもそのうち判明してしまうだろうと俺は踏んでいる。だから、そろそろ場所を変える必要があると思ったのだ。
< 140 / 147 >

この作品をシェア

pagetop