極上ドクターは再会したママとベビーを深い愛で包み込む
*拓海side*


 朝、出勤するなり救急外来から要請の電話が入った。
 すぐにそちらへ向かうと、六十代の女性が担架からベッドに移され横になっている。
 救急隊によると、高血圧の既往があり、胸の激痛を訴えているとのこと。他に症状はないようだ。

「浜野さん、胸のどのあたりが痛いですか?」

 尋ねると、彼女は呻くように言う。

「真ん中あたり……」

 心電図を見る限り、心筋梗塞ではない。
 となると……
 ベッドサイドで経胸壁心エコーを行うと、intimal flapが認められた。
 intimal flapとは、動脈解離において、真腔と偽腔を隔てる隔壁のこと。
 やはり、大動脈解離だ。

「ICUに連絡。ベッド確保して」
「はい」

 心エコーでさらに観察したが、合併症は見られない。
 点滴で血圧は下がってきたし、緊急手術は必要なさそうだ。

「CTも連絡しておいて。痛みが落ち着いたら検査だ」
「はい」

 朝からバタバタだが、今日に限ったことではない。
 これは日常茶飯事だ。
 大人はまだいい。
 より大変なのはまだ身体の小さい子どもだ。
 心房中隔欠損などで、子どもの手術は決して稀ではないのだが、普段以上に神経を使う。

 「子ども、か」

 あの子は……拓斗くんは今日も元気に遊んでいるだろうか。
 菜乃花を見つけた日、彼女の足にしがみつく拓斗くんを見て衝撃を受けた。
 まさか菜乃花が俺の子を産んでひとりで育てていたなんて。
 菜乃花は親兄弟がいないと言っていた。
 きっと頼れる相手も限られていて、大変な苦労を背負ってきたのだろうと思うと、胸が張り裂けそうになった。
 だが、これからは俺がいる。
 菜乃花の心をもう一度取り戻し、拓斗くんにも受け入れてもらえるよう頑張らなければ。
 もしそれができたなら、俺たちはきっといい家族になれる。
 そう信じて、今は仕事に精を出そう。
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