白衣を着た悪魔の執愛は 不可避なようです
「心臓が止まるかと…」

「ん゛んんっっっ~~~っっッ!!」

シャワーを浴びるために浴室に逃げ込んだ夕映は、両手を握りしめ、発狂したいのを必死に押し殺していた。
『一日俺とデートするなら』という条件と引き換えに、ベッドから出る際に目を瞑ってて貰ったのだ。


遡ること数分前。
目覚めた夕映の横にいたのは、ベッドに横たわる神坂医師。
しかも、彼も自分も下着姿という衝撃的な事実に、もはや思考は完全休暇中。
なのに、トドメを刺すように突き付けられた昨夜の出来事で、避暑地に休暇中なのに呼び出された挙句、昼夜を問わず三日三晩勤務を強いられるくらい、心的ダメージが大きい。

酔っていたとはいえ、あんなガッツリと歯形が残るくらい噛みついてしまっただなんて。
穴があったら今すぐ入りたい。
ううん、二度と地上に出て来ないように、マントルの更に奥深くに埋めて欲しいくらいだ。

未だに信じられないのだけれど、彼は私と本気で結婚したいらしい。
彼なら、引く手あまただろうに。

医師といっても専門が違えば、生活リズムが違うのは分かるが、さすがに一つ返事で『YES』とは言えない。
だって、彼には婚約者がいる。

『結婚したい人ができるまでの婚約』だとしても、現時点ではまだ破談になっているわけじゃない。
百万歩譲って彼と付き合うことにしたとしても、本命はあちらで、こちらが浮気相手という現実。
たった二カ月しか経ってないのに、また同じことを繰り返しているようで、夕映はどうしても彼の気持ちを素直に聞き入れられない。

『結婚してくれるなら、破談にする』と言われても…。
本当に破談してくれたら、私は彼を受け入れられるのだろうか?

好きか、嫌いかを問われれば、嫌いじゃない。

仕事に対しての理解力もあるし、外見は理想を遥かに超えてる。
性格は……少し難アリな感じもあるが、許容範囲なのかな……?

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