【第一部完結】悪の皇女はもう誰も殺さない

三章 愛されない悪の皇女


「おや?キャンディス皇女殿下、バイオレット宮殿にいらっしゃっていたのですね。珍しいですねぇ」


キャンディスはニッコリ笑う糸目の男性を見て肩を揺らした。
ヴァロンタンの右腕で影として護衛を務めているユーゴだ。
よくキャンディスに忠告をしてきた嫌な奴で彼は貴族でもなく、ヴァロンタンが奴隷だった彼を拾い上げて護衛としてそばに置いている。

この国では黒色は呪いの象徴とされているため、ユーゴは好奇の目に晒されている。
しかし北の戦闘民族の出で幼い頃に人攫いにあってからヴァロンタンに拾われて忠誠を誓っている。
ヴァロンタンが信用してそばに置くのは彼一人だけ。
今も人当たりのいい笑みを浮かべてはいるが、最も警戒すべき人物であることには違いない。

キャンディスはユーゴをめちゃくちゃ嫌っていた。
その理由は黒髪黒目だからと、アルチュールと同じで高貴な生まれではないからだ。
いつもヘラヘラとしているのに、キャンディスを見透かしたように言葉を発するところも癪に触る。

キャンディスは母親が病死した後、父親に愛されたいと強く願った。
もう母親からの愛は永遠に得られない。
しかし父親は近くにいることに気付いた。
キャンディスは母が死んだ十二歳からバイオレット宮殿に押しかけていたのだがヴァロンタンがキャンディスのために時間を作り、話すことはなかった。
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