私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 初めてわかってもらえたようで、目にじわりと浮かぶものがあった。
 穂希は目を細めて、それから一鈴を抱き上げた。

「ちょっと!」
「暴れると落としてしまうよ」
 からかうように言われて、一鈴は黙った。顔を赤くして体をぎゅっと固くする。穂希はそんな彼女にふっと笑った。

「ラブラブじゃないか」
 あきれるようなコスモの声がする。
 違うんです!
 否定したかった。だが、穂希の体温に緊張して、もう何も言えなかった。



 穂希に送られたあと、一鈴は部屋のソファに座ってぼうっとしていた。
 男性に抱き上げられたのは初めてだ。なのに、一晩のうちに二度も。
 恥ずかしくてなって、顔を両手で覆って伏せた。
 笑ってしまう自分を不気味だとか図太いだとか言わずに理解してくれた。
 それもまたうれしくて、ずっと穂希を思い出してどきどきした。

 ダメだ。
 穂希さんは爽歌さんが好きで、きっと両想いで。
 私は五千万円のためにここにいるの。ほかはいらない。
 そう思おうとするのに、どうしても穂希の顔が浮かんでしまう。
 どうしよう、と思っていると、ドアがノックされた。
「どうぞ」
 答えると、玉江がおずおずと入って来た。

「申し訳ありません」
 深々と頭を下げられた。
「みなさんイブニングドレスをお召しだと聞いてお持ちしました。ですが」
「そんなこといいですよ」
 穂希のせいで頭からふっとんでいた。
「私のせいで恥をかかされたんですよ」
「裸で歩かされたわけじゃないし」
 それよりお姫様だっこのほうが恥ずかしかった。

「お許しいただき、ありがとうございます」
 玉江は再度深々と頭を下げた。
「お食事のときも大変だったと聞きしました。大丈夫ですか?」
「びっくりしたけど大丈夫です」
 はは、と一鈴はあえて笑った。玉江が気にしないように。
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