私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 メインは和牛フィレ肉のポワレのはずだった。
 だが、一鈴の皿にあるのは、大きなネズミの死体だった。

「あはははは! なんですか、これ!」
 一鈴は思わず笑ってしまい、全員の視線を浴びた。 多美子が黙ってクローシュを拾い、被せる。皿をとり、近くのメイドに渡した。
「お下げいたします。」
 多美子が言うと、ほかのメイドもクローシュを被せて皿を下げる。

「あなた、なんのつもりなの!」
 恭子が一鈴を非難する。
「自分でやるわけないでしょう」
 穂希は席を立ち、一鈴の横に跪く。
「大丈夫か。誰の嫌がらせか、すぐに調べさせる」
「あ、嫌がらせですか」
 一鈴は笑いながら答える。

「どういう神経してるの」
 莉衣沙は口の端をひくひくさせていた。
「だって、おかしくないです? ねずみ、つかまえるのも大変なのに、こんなことしますかね! 非生産的すぎます。そのエネルギー、別のところに使えばいいのに!」

 笑い続ける一鈴に、佳乃はため息をついた。
「食事の気分ではなくなったので下がらせていただきます」
「私も……」
 爽歌が佳乃に続く。
「本邸から別のものを届けます。みなさま、お部屋へ」
 恭子が言い、莉衣沙も席を立った。

「一鈴さん、落ち着いて」
 コスモに背中を撫でられ、一鈴は必死に笑いを抑える。
 自分でも変だとわかっている。
 私だって傷付くのに。
 だけど、反射的に笑ってしまうのだ。
 こんなふうだから、昔から変な目で見られてきた。
「私たちも部屋に戻ろう」
 コスモに促され、一鈴は席を立った。

「部屋まで送る」
「大丈夫です」
 穂希に言われ、即座に断った。
「だが、錯乱するほどショックだったんだろう?」
 一鈴は驚いて彼を見た。
 そうだ、錯乱だ。パニックに近い心情で、つい笑ってしまうのだから。
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