私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
 昼食後、一鈴は穂希と共に池に向かった。爽歌が落ちた状況を検証するためだ。
 たもとにかかった太鼓橋の弧はゆるく、ぞうりでも歩きやすそうだった。その欄干は一鈴の腰ほどの高さがあるが、誰かに押されたら落ちてしまいそうな程度ではあった。

「カメラは?」
「あっちだ。基本的には鯉どろぼう対策だな」
「盗んで食べるの?」
「転売目的だ。一匹数千万のやつがいるからな」
「鯉が!?」
「ここにはいないが、俺が知ってる最高額は二億ちょいだな」

「女性の平均の生涯年収が二億ちょっと。鯉一匹で飛んじゃう……。高い鯉ってどれ?」
「なにする気だ?」
「よそで同じ柄を探して売ったら儲かるかな、と」
「面白いことを言う」
 穂希はふっと笑った。
 明るい陽光の中、彼がいっそう輝いて見える。
 どきっとして目をそらした。イケメンには太陽まで味方するのか。そんなの反則だ。

「メイド服は盗まれたようだ。切り取られたICチップが倉庫に残っていた。が、不審な人物は出入りしていない。君に似た背格好のメイドは多くて、絞り切れない」
「はりついてた落ち葉は?」
「特定はできない。カメラに不審な点はなかった。前後の映像にも不自然なところはない。本当に偶然だろう」
「爽歌さんは嘘つく人じゃないんですよね?」
「もちろん」

「手摺にも細工はなさそうですね」
「争った形跡もない。民間の科捜研にも調べさせたが結果が出るのは先だ」
「民間の科捜研なんてあるんですね」
 一鈴の頭に、科捜研といえばあの人、という女優の姿が浮かぶ。

「池の深さは?」
「ここが一番深くて二メートル近くある。岸の近くは三十センチほどだ」
「犯人はやっぱり内部の人?」
 佳乃の顔が浮かんだ。彼女は穂希に興味がなさそうだったが、どうだろう。
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