私はお守りじゃありません! ~現代の大奥で婚約バトル!? 呪われた御曹司が「君は俺のお守りだ」と甘えてきます~
「造園業者も庭には詳しいが」
「また思考が迷宮入りしそう」
 眼鏡に蝶ネクタイの男の子がいたら。と漫画を思い出す。いや、彼がいたらむしろ死人が出るのか。

 一鈴は池に目をやった。風が吹き、水面にさざ波が立つ。
「鯉って、どうして餌をやりたくなるんでしょうね」
「急にどうした」
「事件に関係ないですけどね。鯉より上っていう優越感にひたりたい欲求なんですかね」
「やったことないな」
 穂希は苦笑した。
「ここならやりほうだいなのに」
 人間のことなどかまわず、鯉はゆったりと泳いでいた。



 穂希が帰ると、入れ違いで多美子が来た。リビングで出迎える。
 彼女は一礼したのち、すぐに本題に入った。
「若様に余計なことを教えないでください」
「え?」
 どういうことかわからなくて聞き返す。

「昨夜、若様が御不浄を掃除なさって、メイドたちが軽くパニックになりました。我々の仕事に不満があると行動で示されたことになります」
「絶対に違います」
「若様は開運のためとおっしゃいましたが、それでは通用しないのです」
 ぴしゃりと切り捨てられた。

「若様が自室の片づけをなされた、その点は一鈴様の功績もおありかと思います。が、調子にのられませんよう」
「違います!」
 調子にのったわけじゃない。それだけは違う。
「もっとお考え下さい。あなたは婚約者に指名され、なおかつ今は……。おわかりでしょう?」
 一鈴は悔しくてうつむいた。

「おとなしくなさってください。ご自身でのお掃除も禁止です」
「……はい」
 多美子が出て行くと、一鈴は大きなため息を吐いた。
「大丈夫ですか?」
「あはは、大丈夫です!」
 玉江に心配され、笑ってみせた。
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