ゾンビ化した総長に溺愛されて始まる秘密の同居生活
 白い防護服を着た人間の言葉を聞いて思わず私は声を荒げてしまう。

「落ち着いてください。彼には何もしていません」
「本当ですか? じゃあ、彼に会わせてください……!」
「それは出来ません。あなたがゾンビになったらどうするんですか?」
「ずっと一緒にいたんですよ? ゾンビになってないんですからなる訳が……!」
「果林。落ち着くんだ」

 部屋に白い防護服を着た父親が、部下らしき人間らを連れて現れた。

「田中さん。娘さんが多賀野くんに会わせろと……」
「分かっている。だが、果林。それは無理な話だ」
「な、なんで? 私がゾンビになるから?」
「それもある。まあ、知らなくていい事もある……果林。検査が終わって元気になったら1人で市役所に行くんだよ」
「行かない」

 当たり前だ。勇人と共にいたいのだ。1人で市役所に避難するなんて考えられない。

「私は多賀野くんと一緒にいるの。だから行かない」
「……」
「田中さん、どうします?」
「……とりあえずは、ここに待機させておくように」

 父親はそう言うと、無言で踵を返していく。部下らしき人間らがそれに続いていく。

「ま、待って!」

 私が呼び止めるのも無視して、白い防護服を着た人達は全員部屋から出て行った。そしてご丁寧に部屋の扉の鍵も閉めて。
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