蜜月溺愛心中
「そんなに緊張しなくてもいい。君は僕の妻だから、この車に好きな時に乗ることができるんだ」

「えっ!?い、いや、私、免許持っていなくて……」

仮に免許を持っていたとしても、誰もが一目で高級車とわかる車のハンドルを握る自信など椿にはない。必死にそれを伝えていると、清貴は笑いながらエンジンをかけた。

「行きたい場所があったら教えてくれ。休みの日ならどこでも行ける」

「あ、ありがとうございます」

車がゆっくりと走り出す。椿と清貴の間にそれから会話は一切なく、椿の耳を知らない洋楽がすり抜けていく。

チラリと椿は清貴の方を向いた。清貴は真剣な顔で運転をしている。その横顔ですら、まるでドラマや映画のワンシーンのように見えてしまった。

(かっこいいって看護師さんたちが言っていたのもちょっとわかった気がする)

視線に気付かれてしまうと誤魔化せないので、椿は助手席のシートに深く体を預け、清貴ではなく窓の外を見ることにした。

二十分ほど車は走り、あるマンションの前で止まる。そこにあったマンションは、「お金持ち以外お断り」と言いたげな高層マンションだった。
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