蜜月溺愛心中
君はその名に相応わしい
数秒後には全く違う景色が椿の目に映っていく。窓の外を見つめながら、椿は自身が風を切って素早く飛ぶ鳥になった気分になっていた。

(すごい……。これが新幹線!)

椿は弾む胸にそっと手を当てる。窓の外からひと時も目を離すことができない。口には決してしないものの、心の中では子どもの自分がはしゃぎ、喜んでいた。

そんな椿の目の前に、大きな山が現れる。それはただの山ではない。日本で一番高い山、富士山だ。椿は隣に座っている清貴に声をかける。

「清貴さん、見てください!富士山が見えます。私、初めて見ました」

清貴は読んでいた本を閉じ、窓に顔を向ける。山頂に雪がかかった富士山を見て、その口角は上がっていく。

「本当だ。綺麗だな」

「とっても綺麗ですよね!」

富士山の感想を笑顔で言い合う。それだけでわくわくする気持ちは膨らんでいき、椿は自分の感情に驚いていた。こんなにもわくわくしたのは水族館に行った時以来だ。

「楽しみだな、旅行」

椿の気持ちを見透かしたかのように清貴が言う。その横顔はとても優しく穏やかなものだった。
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