惑わし総長の甘美な香りに溺れて
「助けに行きましょう。笙さん」


 笙さんがいないと陽のいる場所までは行けない。

 促すつもりで声を掛けると、笙さんは「ああ」と頷いてから私に厳しい目を向けた。


「でも、あんたは帰るんだ」

「え?」

「あんたを連れて行って、無事に済むかなんてわからねぇ。陽の大事な女だ。危険な目には遭わせられねぇよ」

「そんな!」


 笙さんの言い分はわかる。

 でも、私だって陽を助けたい。

 それに……。


「三川さんの言うとおりだ。力のねぇ女は足手まといだ」

「それに南香薔薇のことはあんたに直接関係ねぇ。あんまり首を突っ込むな」


 SudRosaの男たちからもそんな声が上がる。

 でも、関係ないなんてことはない。

 だって、私はその南香薔薇の催眠作用を消すための薬・Sを陽に預けられた薔薇姫なんだから。


「関係ありますよ」


 声に力を込めて、ハッキリ宣言する。

 少し怖いけれど、自分の髪に手を差し入れて覚悟を決めた。


「笙さん、この間は嘘ついてごめんなさい」


 先に謝ってから、私はウィッグを取る。

 お父さんと陽以外の人の前でウィッグを外したことはないから、正直怖くてたまらない。

 でも、これで関係ないなんて言わせない!


「なっ」


 笙さんを初め、たくさんの息を呑む音が聞こえる。

 パサリと落ちた桃色の髪を軽く手ぐしで整えた私は、顔を上げ真っ直ぐ笙さんを見た。


「私が、あなたたちが――啼勾会が探していた薔薇姫なんだから」
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