KISSでチェンジ!
しかし良明の両手が純の背中に回って強引にひき寄せられたことで、ふたりの距離はゼロになってしまった。
 良明の鼓動が聞こえてくる。規則正しい呼吸音が純の前髪を揺らす。

 驚いた純から涙がひっこんでしまったが、それでも良明は手の力を弱めなかった。
「大丈夫だ。こうしてピンピンしてる」

 そう言って抱きしめた右手で純の背中をトントンと叩く。
まるで幼子をあやすような仕草に恥ずかしさを感じたけれど、嫌ではなかった。

「良明がでっかくてよかったよ」
 涙声で純が呟く。

「もし俺と同じくらいだったら、今頃人気のない場所に運び込まれてたかも知れない」
 そう言うと良明は微かに笑い声を立てた。

「運び込まれたら、どうなってたんだろうな」
 良明は冗談っぽく言うが、本当に危ないところだったのだ。

 笑い事ではない。
< 64 / 277 >

この作品をシェア

pagetop