僕の秘書に、極上の愛を捧げます
俺は、これまで社長が手掛けてきたサブスクリプションの事業を統括し、更に販路を拡大させるミッションを持っている。

その実行支援として、コンサルタントの遠藤をつけた。
プライベートの派手さはともかく、推進力は確かだと前職の上司からも聞いていたからだ。

オフィスに来る機会も増え、俺の前では距離を保っているものの、何かと理由をつけて彼女に近づこうとしている。
業務との兼ね合いで、遠藤が直接彼女とやりとりすることも増えてきた。

「宮田さん、これ翻訳頼めますか? ちょっと急ぐから、明後日までに」

「明後日・・。はい、承知しました」

「それが終わったら、このサンプルの手配もお願いします」

「・・はい」

彼女の小さなため息が聞こえる。

通常業務にプラスして翻訳作業となれば、さすがに営業時間だけでは処理しきれないのか、ここ何日か彼女も残業していた。


「んーーーっ」

会議を終えた俺が戻ってきたことに気づいていないのか、珍しくデスクで伸びをしている彼女を見て、なんだか可愛らしく思えた。

時計を見ると、もう20時を回っている。
帰宅を勧めようと椅子から立ちあがろうとした時、驚きの言葉が彼女から聞こえたのだ。



「疲れた・・。誰かに、ぎゅっとしてほしい・・」


え・・今、なんて言った?
聞き間違いじゃないよな・・。

『ぎゅっとしてほしい』

思考の中でリフレインされ、考えるより先に口から言葉が滑り出た。


「それ、僕でもいい?」


彼女は驚いてこちらを見た。
自分の呟きを聞かれたことに驚いているのか、俺が名乗り出たことに驚いているのかは分からなかったけれど。

「僕の大事な秘書のリクエストだ。誰か・・に指定が無いのなら、僕じゃダメなのか?」

そう言った俺を見る、彼女の瞳がゆらゆらと揺れていた。



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