僕の秘書に、極上の愛を捧げます

Side 翔子

はぁ・・驚いた。本当に・・。


化粧室の鏡に映る自分をじっと見つめながら、なんとか気持ちを落ち着かせて役員室に戻る。

ドアを開けると、専務は窓の近くに立ち外を眺めていた。
ジャケットを羽織り、右手をスラックスのポケットに入れた立ち姿。

やっぱり素敵・・。

そう思ったら、またドキドキしてきた。
『ぎゅっ』としてもらった感触を思い出すだけで、胸が苦しくなる。

「戻ってたのか」

ふいに専務が振り返り、私を見た。

「・・はい。あの・・」

「ん?」

「あ、いえ・・」

何か言わなければと思うのに、何も浮かばない。
どうしていいか分からなくなり、私は俯いた。

専務の足音が聞こえる。
私に、近づいてきた。

「そんなに、困らせたか・・?」

頭の上から声がして、私はゆっくりと顔を上げる。
申し訳なさそうな、専務の表情。

「・・違うんです。何か言わなきゃと思うのに、どうしたらいいのか・・分からなくて」

私は、自分が感じていることをそのまま言葉にした。
専務を困らせているのは私なのだから、せめてそれくらいは言わなければと思った。

「もう一度・・・・してもいい?」

「・・えっ」

「ダメか?」

真っ直ぐに私を見つめる視線から、逃げることなんてできなかった。
その時、ふっと頭に浮かんだことを口にする。


「・・専務に『ダメか?』って聞かれて、断れる女性なんているんですか?」


そう言うと、途端に専務の顔が曇った。

きっと他の女性なら、こんなことを専務に言ったりしないんだろう。

けれど、流されてはいけないと思った。
私は恋愛するために、専務の秘書になったわけじゃないから。

「・・もう遅いから帰りは気を付けて。お疲れさま」

専務は私の横を通り、役員室を出て行った。



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